リサイクルショップでベッドを買うかどうか

千原ジュニアが、彼がケンドーコバヤシとやっている番組「にけつッ!!」で紹介していた、とてもおもしろい話。



リサイクルショップってあるじゃないですか。
僕もたまに行きますが、いろんなものを売っていて、見てるだけでも楽しいですよね。

そんなリサイクルショップにとって、なかなか売れなくて困るアイテムが「ベッド」だそうです。


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確かにそうですよね。いくら安いからといって、誰が使っていたか分からないベッドをリサイクルショップで購入するのはなかなか抵抗がある。多少高くても新品がいい、と思う人が多いのではないでしょうか。
(ちなみに、ここでいう「ベッド」はいわゆるベッドフレームのことではなく、ベッド(ベッドフレーム+マットレス)、あるいはマットレス単体のことを指すものとして、話を進めます。)

リサイクルショップによっては、ベッドがあまりにも売りにくいので、そもそも引き取りをしていないというところもあるそうです。




そんななか、あるリサイクルショップの店員さんが、店内のベッド売り場にPOPを置きました。
POPは、本屋さんとかで、おすすめの本のところに蛍光ペンとかで手書きで「絶対泣けます!」とか「書店員イチオシ!」みたいに書いてある、アレです。

リサイクルショップのベッド売り場にPOPを置いたところ、売れ行きが大幅に改善した。
さて、そのPOPにはなんと書いてあったでしょう。

という話です。



↓の答えを見る前に、ちょっとだけ考えてみてください。
(僕はまったく答えを思い付きませんでした。)



リサイクルショップでベッドを買うかどうか_d0237270_07193310.jpg




正解は、










「どんな高級ホテルも、ベッドは中古です」
だそうです。




確かにそうだ(笑)!!

しかも、ホテルのベッドの方が、一般家庭のベッドよりもはるかに「不特定多数の人が使っている」ものですよね。

でも、ホテルのベッドで寝る際は(少なくとも僕は)まったく抵抗を感じない。プチ贅沢しか感じない。
なのに、リサイクルショップでベッドを買うことには(少なくとも僕は)強い抵抗を感じる。

これはちょっとロジックが矛盾しているわけです。バイアスがかかっているわけです。



興味深いのは、店員さんが書いたこのPOPを見て、たとえ(まあ、確かにそう言えばそうだな・・・)と心のどこかで思ったとしても、それでも考え方が変わらない可能性がある、ということです、人によっては。
つまり、「リサイクルショップのベッドは買いたくない」ということがもう頭の中で決定事項としてセットされてしまっていると、その後誰に何を言われても、どんな理屈を提示されても、考えが揺らがない、揺るがせたくないという、これまた心理的なバイアスです。

こうしたバイアスこそが人間のおもしろさ、そして奥深さにつながっているとも言えるのかもしれませんが、一方で、バイアスを取り除くことで人生がより楽しくなるんじゃないか、という気もします。
そして、このリサイクルショップの店員さんみたいに、人間の持つバイアスを逆手に取り、それをチャンスにすることだって出来るはずです。




人間心理のバイアスは、通訳者にとって非常に興味深いテーマです。

通訳をする際も、話し手の(そしてときには聴き手の、はたまたときには通訳者である自分自身の)心理的バイアスを意識しながら通訳すると、とてもいい訳になることがあります。
あと、「この人はどういう訳、どういう通訳者を喜ぶのか」を考えるのも、(バイアスとはちょっとそれるかもしれませんが)その人の心理を探りにいくプロセスです。




僕はかなり単純なので、こんなPOPを見たら「なるほど、うまいっ!!!」ということで、さっきまであんなに抵抗があったはずなのに、すぐにリサイクルショップでベッドを買ってしまうと思います(笑)。

# by dantanno | 2020-05-14 08:04 | 提言・発明 | Comments(0)

「バレてない」と本人は思ってるみたい

息子(4歳)。

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なにかいたずらをするとき、決まって
「パパ見ないで」
と予告編を出してからコソコソと決行するので、すぐに足がつく。


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# by dantanno | 2020-05-11 07:15 | 子育て | Comments(0)

Every cloud has a silver lining

コロナに翻弄されっぱなし、という意味では通訳業界も、そしてその片隅で生きるアイリス株式会社や僕も例外ではありません。


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僕個人に関して言うと、
「海外IR案件があまりにも多いので、いっそのことヨーロッパに引っ越そう」
と引っ越した矢先にコロナ。海外出張がすべてストップし大打撃。
実に自分らしく、いい感じで香ばしい展開だなぁ、、と感慨にふけりながら次の一手を考えていました。

すると今度は、世の中の各種会議やイベントがリモート開催になり、その通訳もリモート/遠隔に。
それってどういうことなのかな、と考えてみたら、なんと、、、
ヨーロッパにいながらにして、日本で開催されるあらゆる会議やイベントの通訳が出来てしまう、ということではないか。

打撃の方がはるかに大きいのは間違いありませんが、こういうプラス面もあるからおもしろいですね。
人生すべてそうですが、物事には少なくとも二面、そして多くの場合はそれ以上の側面があることを忘れてはならないと感じました。

# by dantanno | 2020-05-07 03:57 | Comments(0)

セールスマン魂

知らない番号から着信。ためしに出てみた。

先方 "Hello, this is ○○ Services. Is this Mr. Johnson? Yes, hello, and thank you for your time. We are ・・・"
【訳例「もしもし、○○サービス株式会社です。ジョンソンさんの携帯ですね。今お時間よろしいでしょうか。当社は・・・」】

ダン "Um,,, I think you have the wrong number."
【訳例、、っていうか、自分自身の発言だから、謙虚に「訳例」などとせず、好きに訳していいのか: 「あのー、番号間違ってます。」】

先方 "Oh, I'm sorry. Er,,,,, are YOU interested in our services?"
【訳例 「あ、それは失礼しました。 ちなみに、、弊社のサービスにご興味あったりしませんか?」】

セールスの間違い電話を、あわよくばセールスにつなげようとする転んでもタダでは起きない魂。見上げたものです。

# by dantanno | 2020-05-05 05:43 | プライベート | Comments(0)

コロナに伴う「訳の低付加価値化」を最小限に食い止め、春に備える

コロナに伴い、リアルな/フィジカルなミーティングやイベントが無くなり、オンライン開催に切り替わっている。

それに伴い、その通訳もオンラインでの通訳に。 電話会議、Zoom、ビデカンなどのツールが使われている。


ーーー


通訳のオンライン化、そしてそれに伴う低付加価値化を危惧している。

安かろう、悪かろう化を恐れている。


ーーー


まず、価格面のプレッシャーがある。


確かにフィジカルな案件と比べ、オンラインだと拘束時間が短い。移動の必要も無い。ジャージ姿+ノーメイクでOK。


そういったことを踏まえ、割安な料金を受け入れる通訳会社・通訳者が出てくる。

「価格面のプレッシャーがある」と書いたが、「プレッシャーがある」どころか、既に下がっている。

(ちなみに、こういう話が結構恐いのは、一度下げを受け入れてしまうと非常に上に戻りにくい、という点にある。経済用語(?)で言えば、上方硬直性があるのだ。将来、フィジカルなミーティングが再開したとき、従来の料金を取れるのかどうか、も筆者の危惧の対象だ。)


ーーー


価格面のプレッシャーがある、、っていうか下がっているところに、訳のクオリティの劣化が拍車をかけるのではないか。

以下で説明する。


ーーー


通訳は、確かにオンラインでも提供出来る。

でも、フィジカルなミーティングならではの優位性も多い。ここでいう「優位性」は、そのおかげでより良い通訳が出来る、という意味での優位性だ。


例えば、筆者のフィールドであるIR通訳。

フィジカルなIRミーティングの通訳であれば、日本企業の方々(あるいは外国人投資家たち)と一緒にミーティング会場に向かう道中、彼らの雑談を聞いたりそれに参加したりすることで、通訳の準備が出来る。ミーティングで話されるであろう内容について直前のOJTが出来るし、それ以上に貴重と感じるのは、参加者たちのクセ、人柄や力関係を把握出来ること。

そのミーティングがどのような位置付けのもので、なんのために行われ、目指すべきゴールがなんなのか、ということもよく分かる。まあ、IRの場合はミーティングの位置付けも目的もゴールもすべて「IR」なんですが(笑)。でも、同じIRでもいろいろなトーンのIRがあるんです。


また、フィジカルなミーティングには、通訳者としての自分のことを参加者たちにある程度知ってもらった上でミーティングに臨める、という利点もある。

なんというか、、こう、、ヒューマンな感じがするのだ。会場への道中のたわいない雑談のおかげで、自分は単なる「訳マシーン」ではなく、一人の人間だと実感出来るのだ、少なくとも僕の場合。そうやって気分が盛り上がった状態で会議室に入るのが好きなんです。


そしてミーティング中は、同じ部屋・空間を参加者たちと共有することで、場の雰囲気、各者の目線やしぐさなど、貴重な情報を得られる。


ーーー


ミーティングの前、そしてその最中に得られるこうした貴重な情報を以下では「付加情報」と呼ぶことにする。


ーーー


付加情報は、我々通訳者の訳にどの程度影響しているのか。つまり、そういった付加情報が得にくい場合と比べ、我々の訳はどの程度高付加価値化しているのか。場の微妙な雰囲気などを把握することで、我々の訳/訳し方は実際にどの程度変わっているのか。


話し手が何かを発言する。我々通訳者がそれを訳すわけだが、たとえば

①会場が非常に和やかな雰囲気である場合と、

②とても険悪な雰囲気である場合とで、

我々はその発言の訳し方をどう変えるのか?


話し手自身が、場の雰囲気に合わせて発言の内容自体を変える/調整する、ということはよくあるし、その変わり方の振れ幅も大きいだろう。でも、「発言そのもの」ではなくその発言の「訳し方」は、場の雰囲気とか、そうしたいわば二次的な要素によってそこまで変わるのだろうか。まったく変わらない、ということももちろんあるだろう。でも、変わることもある。話し手が"Shut up!"と言った場合、ガチで言ったのであればその訳は「黙れ」かもしれないが、笑いながら言ったのであれば「もう、何言ってんですか〜(笑)」が適訳かも知れない。


これは非常に難しい問題だ。きっとこの点について論文的なものも書かれているだろう。

シチュエーションにもよるし通訳者にもよると思うが、私は間違いなく付加情報によって我々の訳し方は変わっている、つまり訳が高付加価値化していると思う。ミーティングの中の一つ一つの発言(の訳)をつぶさに見ていけばまったく変わっていないケースもある、というか多いだろうが、ミーティング全体を通して見れば、通訳者が付加情報を持っている場合とそうでない場合とでは、訳出のクオリティに一定の差が生じるだろう。


そして、訳し分け以前の問題として、付加情報を持っているおかげで通訳者が安心・リラックスして案件に臨め、その分パフォーマンスが向上する、という利点もある。

(さらに言うと、ミーティングをフィジカルに行うことでミーティングそのものの質が高まり、その分その訳の質も高まる、という面もあるだろう。素材がいいと、その料理も美味しくなるのだ。)


ーーー


もちろん、電話会議やビデカンの通訳をする場合でも、場の雰囲気や参加者たちについてある程度の付加情報を会議中に得られるわけで、それを元に訳を微修正する(つまり高付加価値化する)ということを我々通訳者はしている。でも、リアルなミーティングでのそれと比べると当然弱い。


ーーー


もし上記仮説の通り

「フィジカルなミーティングの場合、事前に、およびミーティング中に得られる付加情報のおかげで、通訳を高付加価値出来る」

のであれば、通訳がオンラインに移行することでその分低付加価値してしまう、というリスクがある。

そして、それは(既に存在する)価格の下落傾向に拍車をかける。


ーーー


ちなみにこの話(フィジカル→オンラインで訳及びパフォーマンスが劣化する、という話)は、特定のタイプの通訳者によりあてはまると思う。

特定のタイプの、というのを具体的にいうと、通訳の上手さ以外の部分を武器に指名を取っている通訳者だ。自分もその一人だ。


人柄のよさ? 人柄で仕事が取れている通訳者?

いや、「人柄」と言ってしまうと、なんだか自分が人柄がいいと言っているみたいになってしまい、語弊がある。

人柄もある程度関係しているかもしれないが、それ以上に、「現場での立ち回り方」とでも言おうか。それがなんだか上手で、結果的に参加者に好感を持たれがちな通訳者がいる。


昔書いたブログ記事で「体感通訳力を上げよう」みたいな記事があった気がする(なんか見つからない・・)が、まさにそれだ。実際の通訳力は80点だとしても、なんだかこう、訳以外の要素で加点され結果的に85点になっちゃうという、そういう通訳者が存在する。


そういう人柄通訳者もとい立ち回り通訳者にとっては、フィジカルではなくオンラインで通訳をする、というのが(フツーの通訳者以上に)不利になる。ああ、不利だ。。電話会議システムに接続する度に不利さを感じる。


ーーー


フィジカル VS オンラインの話を考える上で、もう一つポイントとなるのが、我々通訳者のモチベーションだ。


電話会議をうまくこなし、ミーティングが無事終わった場合、我々通訳者は一定の充実感を得る。


でも、リアルな会議に伴う充実感はその比ではない。

会議にフィジカルに参加し、参加者たちと一緒にその場の雰囲気というかうねりのようなものを作り上げ、いい通訳で会議を成功に導く(そのお手伝いをする)実感は、なにものにも変えがたい。ミーティング終了後、参加者たちと会場を後にしながら(エレベーターの中などで)お褒めやねぎらいのことばや名刺交換の要請をいただいたときの喜びといったら無い(笑)。

あと、一日の行程、あるいは一週間のIRが終わったあとの打ち上げも格別だ。ウェブでの通訳で、「ミーティング終了後、関係者一同でWeb飲みしましょう」とはなかなかならないだろう(笑)。なったとしてもどこか味気ない。こっちはおいしい生ビールが飲みたいのだ。


そうしたNon-monetaryな報酬を相対的に得にくいオンライン通訳では、通訳者がモチベーションを(多少なりとも)感じにくくなる、という弊害は無いだろうか。あるでしょう。


ーーー


フィジカルなミーティングの通訳が再開するまでまだ時間がかかりそうな中、通訳はオンラインにシフトせざるを得ない。それはまあいい。

そうした中、我々通訳者に出来ることは、オンライン通訳の本番中に少しでも付加情報を得て、それを元に訳を高付加価値化し、その結果参加者たちを喜ばせる、という好循環を作って行くことだと思う。それをすることで、通訳の低付加価値化を食い止めていきたい。


ちなみに、電話会議やビデカンで付加情報を収集し、訳に反映させるのはなかなかチャレンジングなことであり、それを実現するためには、いつもに増して「基本的な通訳力」が必要となる。つまり、付加情報の収集作業は「ちゃんと訳す」という基本の作業をある程度ラクに(つまり脳のキャパをあまり消費せずに)行えて初めて、それと並行して行えるようになる応用の作業だ。

自分は通訳者デビューしてすぐにIRの電話会議の通訳を始め、↑の事実を痛感した。1時間の電話会議 VS 一週間に渡る海外IRへの同行。どちらも難しさが伴うが、相手が見えない電話会議で、たったワンチャンスで、限られた付加情報しか無い中で自分を証明する、あのヒリヒリ感 + 分不相応感は今でも忘れられない(笑)。電話会議こそ、実は最上級者が担当すべき難度の高い通訳案件なのだ。ちょっと話がそれた。




我々ヒューマンな通訳者がその本領を発揮できるのは、やはりリアルな、フィジカルな会議だと思う。今は、今できることを一生懸命やりつつ、リアル会議の再開を辛抱強く待ちたい。

僕は通訳者。早くジャージを脱ぎ、勝負服であるスーツを着たいものです。


# by dantanno | 2020-05-03 20:14 | プレミアム通訳者への道 | Comments(0)