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通訳と翻訳の違い

今日、大事な通訳案件を控えている。
こういうとき、通訳と翻訳の違いを感じる。

自分は通訳と翻訳両方やっており、どちらも大好きだ。
両者の違いはいろいろとあるが、一つ大きく異なる点として「気概」があると思う。

通訳の場合、その会議なりイベントなり(*以下「イベント」と総称)を「なんとしても成功させるぞ!」という気概が求められる。
もちろん翻訳だって気概を持って臨むし一生懸命頑張るわけだが、なんというか、その気概は結構分散していると思う。一方で通訳の場合は、気概が「本番」という焦点に向けて集中される。それが通訳と翻訳の大きな違いだ。




我々通訳者は日々いろいろなイベントで通訳をしている。

イベントは、関係者にとって悲願だ。なんとしても成功させたい、成功させないとまずい、そういう必死の緊張感で客は本番に臨んでいる。

だからこそ、通訳者がそれと同じ、、、いや、なんならそれを上回る気概を持って(絶対に、なんとしても成功させてやる・・・)という熱量で臨んでいると、それは必ず客に伝わり、感動に繋がるのだ。ついでに次回の指名もお願いします。



通訳が上手かどうかももちろん大事だ。でも、それは最低条件であり、プラスαでしかない。一番大事なのは強いオーナーシップをもって、完全に関係者の一員と化し、イベントの成功に邁進するその気概だと思う。

# by dantanno | 2025-05-30 07:07 | 通訳 | Comments(0)

Web会議の「ビデオ・オン/オフ」問題

今日は、Web会議におけるビデオ(画面)オン、およびオフについて考える。つまり顔を見せるか見せないか、だ。

<エピソード①>
以前、通訳者の紹介で、ある大学の「特別講義」みたいなのを担当することになった。学生たちに対し、私自身のこれまでのキャリアについて話し、彼らのキャリア構築の参考にさせてほしい、みたいな趣旨。そういうのが大好きな私は二つ返事で引き受けた。
当時コロナ真っ盛りだったこともあり、Zoomを利用した講義となった。学生たちはみな画面オフで、オンにしているのは私と担当教授の2人だけだった。
ほぼ真っ暗な画面に向かって熱く人生を語っていると、まるで壁に向かって話しているような沈鬱な気持ちになった。相手は向こうにいるのかいないのか。聴いているのかいないのか。いるとしたらどんな顔をして聴いているのか、うなずいているのか、冗談のパートで笑ってくれているのか、何も分からない。
講義終了後、担当教授に「しっかしアレですねw、みんな画面オフだとなんだかやりにくいというか、、、(笑)」みたいに振ったら「もうあきらめてます(笑)」という答えがスパーンと返ってきて、今どきの学生はそういうものなのかな。。?と思った。

<エピソード②>
当社が通訳を担当させてもらっているある会社で、社長の発案で、社内の各部門とのディスカッション・セッションを設けている会社がある。
順繰りにいろんな部の人たちと開催。規模が大きい部は2回・3回に分ける根の入れよう。社長は同じような話を何度も繰り返さないといけないから大変だが、それぐらい、社員とのコミュニケーションを重視しているということだろう。
さてそのセッション、Web会議形式で行われるのだが、部門によって画面オン率が異なる。ほぼ全員オンの部門もあれば、ほぼ全員オフの部門も。
画面オフの部門に対し、社長が「これは礼儀の問題でもある。不可能な場合はしょうがないが、そうでなければなるべく画面をオンにするように」と呼びかけても、画面は頑なにオフのままのことが多い。
それを通訳しながら(なんと無礼な人たちか・・・)と憤慨していたのだが、実はこれ、その人が無礼とかそういう問題ではなく、もっと根が深いのかもしれない、と思った。

<ここからが本題>
なんで画面オフなの?
人と会う時、顔の前に紙をぶら下げ、顔を隠して「おう、ひさしぶり!」ってやらないですよね。顔を見せますよね。それと同じでしょ、なんで顔を見せないの?っていう話です。

画面(ビデオ)をオンにし、顔出しで一生懸命しゃべっている側からすると、画面オフにして暗闇の中に潜んで話を聴いている人を無礼に思うことがあるのもやむを得ない。

では、Web会議で画面をオフにする人は、なぜオフにしているのか。考えられる理由は以下の通り:

1.通訳者とか議事取りとか、そういう事務局的な立場である → それは分かるので、とりあえず除く。ここでは会議の主参加者たちのことを取り上げる。
2.着替え中とか移動中とか、何かやむを得ない事情がある → それならまあしょうがないけど、でも一応勤務中ですよ、、、? と言いたいケースも。
3.自分ごときが画面をオンにするほどでもない、という謙遜。控えめな態度の表れ → これはむしろ「無礼」の逆ですよね。上記1.とも重複しますね。
4.その会議が双方向のやり取りではなく、自分は一方的に情報を受け取る/聴くだけの会議だと位置付けている場合


Web会議の「ビデオ・オン/オフ」問題_d0237270_07490007.png

4.のケースが結構多いのではないか。つまり、「この会議は双方向ではなく一方通行。自分は話を聴くだけ」と思っているのだ。だから画面をオフにしている、そういうケースが多いんだろう。これが「この会議は双方向のやり取りになる」という意識が強ければ画面をオンにするかもしれない。つまり、個人の無礼/無礼ではないという問題ではなく、その人にとって、その会議がどういう位置付けか、という問題なのだ。

すなわち問題は、個人の姿勢云々ではなく、話を聞くだけの一方的な会議が多すぎること、それこそが本質的な問題なのではないか。

画面をオフにしている人たちは、無礼な悪い人ではなく、むしろ彼らこそが犠牲者なのだ。今まで、聞くだけの会議にさんざん出席させられてきた結果画面をオフにするようになっただけなのだ。
これは中東で、ブルカなどの布で顔を含め全身を覆わされている女性と似ている。彼女らは「喜んで」「自ら進んで」そうしているかもしれないが、実は彼女らは古い思想の犠牲者なのだ。それを解決するには、マインドセットから変えていく必要がある。

画面をオンにしろ!と強制し、無理やり画面をオンにさせてもしょうがない。それでは「謝れ!」と言って謝らせているのと一緒で、文字通り意味が無い。

解決策は、一方通行な会議をなるべく減らし、双方向の会議中心にしていくこと。
(この会議では自分も意見を表明出来る)、(自分も立派な参加者なんだ)と、みんなが主体的に参加出来る会議を主にすることで、みな自然と画面をオンにするようになると思う。報告や情報伝達だけの会議はメールやボイスメールでやればいいのだ。

# by dantanno | 2025-05-28 07:45 | より良いコミュニケーションのために | Comments(0)

「難しい」

日本人って「難しい」っていう言葉が好きですよね。ビジネスの現場でもよく登場します。

結構 訳しにくいんですよね、この言葉。話し手が、一体何を言いたいくて「難しい」を使っているのかを考える必要がある。
(もっとも、それすなわち「何を言いたくてその言葉を使っているのかを考える」って通訳者の本業だから、「訳しにくい」とか言ってる場合じゃないんですけどね、僕は)

日本人が「難しい」って言うのを聞くと
何言ってるの?? あなたたち、もっと難しいことをたくさん乗り越えてきたじゃん(笑)!
って思います。

難しいから何よ?だから出来ない、ってこと?そんなわけないでしょ、日本人なんだからw、って。

難しい → だからこそやり甲斐/取り組み甲斐がある! → よし、やってみよう!!!
とかなら分かるんですよ、我々日本人っぽくて。

「難しい」の使用をそういうポジティブな場合に限定出来たらいいんですけど、まあそれも難しいか。。。

# by dantanno | 2025-05-04 10:48 | 提言・発明 | Comments(0)

年収よりも大事なこと

TVとかでよく「年収○○○万円!!」みたいに騒いでいるのを観て違和感。年収も大事だが、それよりも大事な要素がたくさんある。

①ストック
年収はあくまでもフロー。それよりも大事なのはストック、つまり財産をいくら持っているか、あるいは持っていないか。
財産には、
・プラスの状態と、マイナスの状態がある。両方経験して来て、どちらにもそれなりに意味があると感じる。
・直接(完全自分名義の資産)と間接(たとえば自分の周りの人たちが保有し、それをある程度アテに出来る資産など)がある。
・有形(現金)と無形(信頼とか、いざとなったらお金を貸してくれる先、とか)がある。
・すぐに現金化出来る財産と、現金化出来ない/しにくい財産がある。

②どんぐりの背比べ
年収400万円の人からすると、600万円の人は自分の1.5倍稼いでいて、800万円の人は自分の倍稼いでいる、そういう計算になる。
でも、年収8000万円の人からするともう全部一緒。遠くからだと、目をこすって見ても違いがよく分からない。
・800万円の人が驕るのも400万円の人が嘆くのも、どちらも馬鹿げたことでしかない。似たようなものなんからあまりその誤差の範囲にこだわらなくていい。
・やり甲斐のある仕事をしていたのを、年収をわずか100万円、200万円増やすために全然やりたくない仕事に転職しない方がいい、ということ。それをやるならコスト面を見直した方がはるかにいい。

③売上よりも利益
年収は、企業で言うところの「売上」に相当。入ってくるお金。
だから、そこから税金をはじめ、生活費や遊興費など出ていくお金、つまり各種コストを引いて考える必要がある。
・年収500万円でコスト250万円の人は、年収1000万円でコストが800万円の人よりも裕福とも言える。

④来年以降いくら稼ぐのか
年収はあくまでも「今年」いくら稼ぐか、あるいは昨年いくら稼いだか。
そんなことは実はどうでもよくて、これから先の未来にいくら稼ぐのかの方がはるかに大事。
・年収500万円で今から6年職がある人は、年収2500万円だけど来年以降収入が無い人よりも裕福とも言える。
・将来年収が10倍になる人にとっては、今の年収がいくらかなんてあまり関係がない


# by dantanno | 2025-04-12 20:24 | 提言・発明 | Comments(0)

分かりやすく話す技術

通訳をしていて(訳しにくいなぁ・・・)と感じることがある。

訳しにくい原因は多くの場合当方にあって、例えば話されているテーマについての当方の理解が不足していたり、当方の訳す力が及ばなかったり、といった本質的な問題から、音声が聞き取りづらいといったテクニカルな問題までさまざまだ。そして、ときに「話が分かりにくい」ことが訳しにくさの原因であることもある。

「アレがアレでさぁ・・・」という発言は、世界一通訳が上手な通訳者を連れて来ても上手に訳せない。せいぜい"That is that"と訳すぐらいだ。原文が分かりにくいのだ。

翻訳も同様。難解に書かれた文章は訳しにくく、仮に上手に訳せたとしてもその成果物は難解すなわち分かりにくいものになる。原文が分かりにくいのだ。

ーー

ものごとを分かりやすく話す、あるいは書く、という技術は、あらゆる技術の中でかなり過小評価されている方だと思う。むしろ、分かりにくい方がなんだか深淵で賢く聞こえる、という側面さえある。この傾向は話し言葉よりも書き言葉でさらに強い。難しい書物=高度(すなわち良い)書物、というイメージがある。実際は、難しく書くのは簡単で、分かりやすく書く方がはるかに難しく、かつ素晴らしいことなのに。

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私はお笑いが大好きで、「すべらない話」などは繰り返し繰り返し、もう暗記するほど観ている。その結果感じるのが分かりやすさの重要性。お笑いで、面白い話、ウケる話というのは分かりやすいのだ。何を言っているのかがちゃんと分かることがまずおもしろさの出発点になる。分かりやすい話は、聴き手の頭の中で情景が浮かび上がりやすく、それにより、面白く感じるための土台が出来上がるのだ。

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通訳をしていて、分かりにくい(*だから訳しにくい)発言があると、ものすごく興味が湧く。訳そのものよりもむしろ「なぜ分かりにくいのか?どうすれば分かりやすくなるのか?」に興味が行く。最近では、通訳している時に何か分かりにくい発言がなされた場合、それを記録し、後から分析することを楽しんでいる。

その活動(?)を通して見えてきたのが、分かりにくい話、というのはいくつかのパターンに分類出来る、ということだ。例えばこうだ:

・余計な枕言葉  (「要するに」、「ある意味」など)
・複数通りの解釈が出来てしまい、惑わされる発言  
・主語が無い/分からない 
・テーマが見えない(何についての話なのかが分からない)
・尻切れトンボ (文・フレーズが終わらないうちに次に行ってしまう)
・かっこつけている (「関係」と言えばいいのに「関係性」と言ってみると知的に聞こえる)
・あのその (「その前に〜」→何の前に?)
・アレアレ詐欺 (「アレがアレで〜」)
・具体的にどういう意味なのか、が分からない (「難しい」、「力技で」、「対応します」、「粛々と」、「よろしくお願いします」など)
・ロジックが支離滅裂 (「でも美味しい」「逆にうれしい」)

などなど。

ーー

分かりやすく話せるようになるためには、いくつかテクニックがある。それを意識するだけでもだいぶ変わってくると思う。そうしたテクニックを今リストアップしている。

テクニックを超えた本質的な解決策としては、話を口にする前に発言を頭の中で再生し、チェックするというものがある。我々通訳者が半ば無意識に日々やっていることだ。発言をする際、ただ単に思ったことを言ってしまうのではなく、自分がこれから言おうとしている発言を一度頭の中で再生するのだ。それを聴き手の立場に立って聴き、(そうか、これだと分かりにくいな、、、)と思ったら修正した上で、その修正バージョンを初めて声にして出すのだ。
そんなこと出来るわけないじゃないか!と思うのは単にその訓練をしていないからであって、実際には出来る。分かりやすく話す人はみなそれをやっている。まずはゆっくり、練習でいいのだ。自分一人で出来る。

どんなネタでもいいから(*今日の午前中自分が何をしたかとか、映画の感想とか、なんでもいい)何かの話をする、という設定で、自分がどういう発言をするかを考える。それを口にしてしまうのではなく、頭の中で再生する。再生しながら、聴き手の立場に立って聴いてみる。慣れてくれば、分かりにくいポイントが見えてきて、話す前からそれを修正出来るようになる。

ーー

分からない発言をひとつひとつピックアップし、それをジャンル分けし、どう言えば分かりやすくなるのか、といった分析を延々と続けている。いつか、何かにつながるかもしれない、と思いながら。。。

AIの時代、我々人間がAIに話しかけるシーンが増えてくることを考えると、分かりやすく話すことはますます重要になっていくと思う。過小評価されがちなこの「分かりやすく話す・書く」力を正当に評価し、我々が皆もっと分かりやすくコミュニケーションすることを心掛ければ、意思疎通がスムーズになり、余計なボタンの掛け違いも減り、より良い世の中になると思う。

# by dantanno | 2025-04-09 18:16 | プレミアム通訳者への道 | Comments(0)

通訳・翻訳者 丹埜 段(たんの だん)のブログです。IRを中心にビジネス・ファイナンス系を専門としています。 通訳会社IRIS経営。http://iris-japan.jp


by dantanno