最近、「関係性」という言葉を耳にする機会が増えた。
AとBの関係性。
○○の関係性。
昔は言わなかったですよね、関係性って。
この言葉が気になって気になって夜も眠れない。
母国日本からはるばるオランダまで、高い送料と高い関税を払って取り寄せた本。
(安斎勇樹氏、塩瀬隆之氏著「問いのデザイン」)

この本でも、出だしの、しかも結構重要そうなところで「関係性」がお目見え。


今日は、「なぜそんなに気になるのか」を含め、関係性という言葉について徹底的に考えてみる。
関係性、って、そもそもどういう意味?
「関係」と同じ意味? 違うの? ほぼ同義?
関係の「性質」ってこと?
僕は通訳者なんですが、もし自分が担当する通訳案件で話し手が「AとBの関係性が〜」と発言した場合、それをどう訳せばいいんでしょう。
これがもしフツーに「AとBの関係」であれば、フツーに
The relation/relationship between A and B
みたいに訳せばいいんでしょうが、「関係性」だったら?
言葉を扱う仕事をしていることもあり、言葉を大事にしたいんですよ。せっかく話し手が使った言葉は、極力訳に反映させたい。そんな話し手が「関係」ではなく「関係性」と言ったら?どう訳せばいいんでしょう。分かりません。心が千々に乱れます。
(ちなみに、上記訳例で登場する”〜ship"という、これまた付け足し的な表現も、「〜性」同様、とても興味深い。リーダーシップ然り、オーナーシップ然り。これについてはまた別途。)
翻訳学校(行ったことないけど)で教わる大事なことの一つが、それを入れても入れなくても意味が変わらない言葉は翻訳に入れるな、という鉄則。
それに照らせば、関係性の「性」は落としてもいいというか、落とすべきものなんでしょうか、あるいはちゃんと意味・効果があるので残しておくべきなんでしょうか。
疑問が尽きないので、広辞苑と精選版日本国語大辞典の2つで調べてみると、、、
な、なんと、載ってない。「関係性」載ってない。
「関係」は載ってるけど。
(「載ってる/載ってない」も日本語的にアレなんですが、このブログでは話しことば調を重視しているのでとりあえずOKとします。)
記事の冒頭で、関係性という言葉について徹底的に考えてみる、と書きましたが、意外と考えることが無かった。それほど浅くてチープな「関係性」。
いや、もしかしたら「関係」と「関係性」は異なる意味を持った言葉で、その使い手は意図的に「関係性」という言葉を使っていることもあるかもしれません。そうであればもちろんいいんです(その場合、その「関係性」がどういう意味なのか、とか、どう訳せばいいのかな、といったことは気になりますが。)
以下、あまり深い意図は無く「関係性」という言葉を使っていました、というケースについて論を進めます。
別にいいんですよ、「関係」を「関係性」と言ってみたって。
慶応を慶応義塾、羽田を東京国際空港、寿司をシースーと言っているようなもの。意味は全く変わらない中で、ムダにちょっと長くなっているだけだと思えば、別に心に波風は立ちません。
僕が気になるのは、「関係性」という言葉を使うとき、一体なぜ「関係」ではなく「関係性」と言うのか、その心理が気になるんです。
つまり、かっこつけようとしてるんじゃないか、という疑惑が浮かび上がってくるんです。
さらに考えると、たいした話をしていないのを、多少なりとももっともらしくしたい、だから関係に「性」をつけてみるのではないか、と。
言ってみれば自信が無いのかな、と。
もしそうだとしたら。
やめちゃいませんか?
関係に「性」をつけるのを、ではなく、かっこつけようとするのを。自信が無いのを。そしてそれを取り繕うのを。
ありのままで勝負するか、あるいはかっこよくなるまで待ってから勝負するのでいい。いや、カッコ悪くてもいいじゃないか。
「関係」で十分意味が通じるし、そして何よりも、「AとBの関係」、十分かっこいいです。