ときおり、通訳者から
「IRISに登録したい」という連絡をいただきます。
とてもうれしいし、ありがたいことです。
そういう場合、
「では、まずはワークショップにご参加ください。」
と言うようにしています。
IRISでは定期的に通訳ワークショップを開催しています。
ワークショップではいろいろなことをやりますが、必ず通訳の演習も行っています。
何らかの音声を再生し、それを参加者全員で通訳します。
そこで高い通訳力を確認出来た方に対し、登録を打診しています。
ちなみにこのワークショップ、有料で行っています。
ーーー
これまでの話をまとめると、
1.IRISへの登録を希望する方は、ワークショップに参加してください。
2.ワークショップは有料です。
ということになります。
さて、この1.と2.。
それぞれ単独で見ると別に違和感は無い(少なくとも私は)のですが、
こうして2つを並べて見ると、
1.登録を希望する方は、ワークショップに参加してください。
2.ワークショップは有料です。
↓
登録を希望する方は <中略> お金を払ってください
のように見えます。「見える」というか、実際そうです。
つまり、「IRISは登録料を取ります」という印象を与えても仕方が無いな、と感じました。
そこで、このブログ記事を使って話を整理することにしました。
ーーー
<IRISへの登録は無料です>
IRISには「登録料」はありません。
無料で登録いただけます。
<IRISでは、ワークショップを行っています>
前述の通り。
<なんのためにワークショップをやっているのか>
いくつか理由があります。重要性の順に並べます。
・楽しいから
・いい通訳者を発掘するため
・登録通訳者のさらなるレベルアップのため
・丹埜自身の個人的なレベルアップのため
間違っても「お金のため」ではありません(笑)。
<ワークショップは、(少なくとも金銭的には)割りに合わない>
私はいくつかの仕事をしています。
・通訳者
・翻訳者
・通訳エージェントの運営
・通訳の指導(於大学院)
・ワークショップの主宰(プロ通訳者向け)
後半の「通訳の指導」と「ワークショップの主宰」については、金銭的には「割りに合わない」です。「金銭以外」のインセンティブでやっています。
<ワークショップを行う理由が「儲けるため」ではないのであれば、無料にすればいいではないか>
確かに。
元々は無料だったんです。
でも、無料にすると、主に2つの問題が生じました。
まず、私自身があまり張り合いを感じられない、やる気が出にくい、という問題です(だったらやらなければいいんですが)。
(どうせお金取ってないんだし・・・)的な、そんなズルズルした気持ちが出てしまうんですよね。
もう一つの問題は、「タダなら参加してみるか」みたいな人が来てしまう、ということです。
実際にそういう人がゾロゾロ来てしまって困った、ということでもないんですが、まあ理論的にはこういうこともあり得る、ということです。
<ワークショップは有料>
ということで、ワークショップが有料になりました。
当初は1万円にしましたが、もっと上げる必要を感じ、今は3万円にしています。
有料にしたのは、ひとことで言うと、バーを上げるためです。
講師サイド: 一定のお金を取るからには、ちゃんと「仕事」として、しっかりとしたものを提供しないといけない
参加者サイド: この金額を払ってでも参加したい、という強い意欲を持った方だけが集まる
この2つの効果から、有料化後はワークショップのクオリティーが上がった気がしています。
<ワークショップで、通訳者の通訳力を見定める>
「IRISに登録したい」と言って来てくださる方は、多くの場合、経歴書を添付してくれます。
せっかく送って来てくださったのでありがたく目を通しますが、経歴書は全く、一切参考にしません。
それはなぜかというと、今までたくさん、「経歴は見事なのに、通訳力が低い」通訳者を見て来たからです。
また、経歴がまっさらなのに、とても通訳が上手な通訳者を(数は少ないものの)見て来たからです。
なにより、私自身がフリーランス通訳者としてデビューした当時、
「経験が無いから仕事を紹介してもらいにくい」
「仕事を紹介してもらいにくいので、経験を積みにくい」
という苦い思いをしたから、自分がエージェントをやるときは絶対に経歴なんて見ないぞ、と決めたからです。
経歴書をちゃんと見ないので、同じ通訳者と会う度に「あなたはどういう経歴でしたっけ?」という話で何度でも盛り上がれる、といううれしい副産物までありました。
通訳者の通訳力の評価については、すべてワークショップ、あるいはそれ以外の場で、実際に通訳を聴かせていただいて評価しています。
<なぜ 「登録したければ、ワークショップ(有料)へ」 という仕組みになっているのか>
なぜIRISが今のような仕組みになっているのか、を改めて考えてみたんですが、それはIRISがワークショップをその中心に据えていて、ワークショップがIRISにとってはとても重要な場である、ということが一つ。ワークショップは、通訳者発掘の場でもあるし、私を含む「IRIS登録者」にとってのさらなるレベルアップのための場でもあります。道場なんですよ、通訳の。
そして、もう一つの背景は、IRISでは、通訳者からの問い合わせについてはどちらかというと「登録したい」よりも「ワークショップに参加したい」という問い合わせをメインに想定して仕組みを構築しているから、だと思いました。
「ワークショップに参加したい」 → ワークショップに参加する → そこで実力を示す → 「登録しませんか?」
という流れを想定して仕組みを作ったんですが、でもこれがときどき
「登録したい」 → 「では、ワークショップ(有料)にご参加ください。」
となるから話がおかしくなる(ことがある)んでしょうね。
<「登録したければ、ワークショップ(有料)へ」の矛盾をどうするか>
いろいろな経緯・背景があって現状の
ワークショップ参加 → 登録
という仕組みに至っているんですが、確かにこれは、見方によっては「登録したければお金を払ってください」という、なんかヘンなことを言っていることにもつながります。難しいですね。。。
こう説明すればいいですかね。
IRISへの登録に際し、有料ワークショップへの参加は必須ではありません。
「登録したい」と思ってくださった場合、何らかの方法で通訳力、人柄、向上心などを見せていただき、安心感を与えていただければ、その後登録いただき、国内外の通訳案件をご紹介します。
たまたまIRISではワークショップを行っていて、そこで「通訳の演習」をやるので、それが通訳を確認するための一つの場として機能していますが、別にそこでなくてもいいわけです。
例えば通訳案件において私とブースで組ませていただくとか、そういう方法もとてもいいです。
<通訳者選考会みたいなことはやらないのか>
ワークショップ(有料)とは別の場として、例えば通訳者選考会(無料)のようなことをやったらどうか、という意見もあるかもしれません。
一理ありますが、一方で今、そんなに一生懸命通訳者を募集していない、という現状もあります。
案件は少しずつ増えていますが、通訳者も少しずつ増えており(去年は3人増やしました)、今この瞬間は別にそれほど登録者を求めていません。
ロンドン・欧州はちょっと例外で、事業拡大に伴い、優秀な通訳者を積極的に求めています。
これは決して「登録を受け付けていない」ということではなく、いいな、と思う方がいればこちらから頭を下げて登録いただきたいわけですが、選考会のようなことをやってまでは通訳者を求めておらず、たまたま、それこそワークショップなどで「おっ、いいな」と思う方がいれば登録を打診したい、という状況です。
<まとめ>
IRISに登録したいと思ってくださった方、本当にありがとうございます。通訳者の方からそう言われるのは、「IRISをがんばって来てよかった」と思う貴重な瞬間の一つです。
1.有料で申し訳ありませんが、ワークショップという場があるので、もしワークショップの内容自体に興味が持てて、(登録云々とは別に)単にスタンドアローンの「ワークショップ」として、有料でも参加したい、と思えるようであれば、ぜひご参加ください。そこで通訳を聴かせていただき、通訳力が高いと判断出来た場合は、こちらから登録を打診させていただきます。
なお、IRIS登録後は、ワークショップは全て無料で参加出来るようになります。
2.ワークショップは必須ではないので、それ以外の場で実力を証明してくださるのもウェルカムです。
すばらしいIR通訳を通し、日本のIRを国内外で盛り上げつつ、通訳という仕事のプレミアム化に一緒に取り組んでくれる仲間を求めています。我こそは、と思う方、ぜひワークショップ(あるいはそれ以外の場)でお会いしましょう!