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この秋、欧州のIRミーティングでESGの話題があまり出なかったことに関する考察

9月の一ヶ月間、欧州とロンドンで機関投資家たちを周って過ごした。



その前の、夏のIRシーズン(5-7月)。
オランダの年金系の投資家、スイスの投資家、そして一部のロンドンの投資家を周っていて、ESG関連の話題がかなり出ていた。
(それを受け、IRISでも8月下旬に、通訳者有志向けにESG、SDG、PRIなどの説明会を行ったばかり。)

今回、夏と同じ顔ぶれの投資家たちを訪問することになっていたので、今回も当然ESG関連の話題が盛りだくさんになるだろうと予想していたら、意外と出なかった。意外とというか、ESGの話題がほとんど出なかった。

「投資家たち、もう飽きたんですかね(笑)?」と、証券会社のバンカーや発行体の方々と冗談交じりに話したほど。



<投資家の興味は移ろいやすい>
実際、海外投資家の興味は移ろいやすい。

例えばアベノミクス。
一時期、アベノミクスが盛り上がっていた頃、日本国内のIRでは、マクロ系のIR取材が急増した。内閣府、日銀、財務省、政治家などを訪問する機会が激増した通訳者も多いと思う。盛り上がりが急激だったのと同様、盛り下がりも早かった。

あとは、例えばホテル。
不動産系の会社(デベロッパーやリート)と海外を周ることが多いが、一時期、ホテルの話題が急増。
「御社はホテルはやらないのか、作らないのか、なぜやらないのか?他社はやっている。」がメインテーマだった。でも、すぐに
「ホテルの客室は多すぎやしないか。御社はホテルやってませんよね、大丈夫ですよね?ああよかった」となった。結構テキトーなのだ。

今は、ホテルについては、投資家の興味は落ち着いていて、いい感じで賛否両論がバランスしているように思う。


ーーー


さて、ESG。
この秋、一体何が起きたのか? 投資家は、はやくも関心を失ってしまったのだろうか。

そんなことはないと思う。
実際、いくつかの投資家オフィスでは「Responsible investment」みたいなパンフレットやポスターがあちこちに貼られていて、それはあながちポーズでやっているだけとは思えなかった。

では、なぜIRミーティングでESGが話題に出なくなったのか?
(注:ここでは、僕のここ1ヶ月のIR経験という、ごくごくミクロなサンプル数を元に話をしている。実際にはIRミーティングでESGの話題が依然として出まくっているのかもしれない。分からない。ここでは、「もし仮に最近IRミーティングでESGネタが出なくなっている」のであれば、その原因として何が考えられるか、について考察する。)



僕は、理由は2つあると思う。

「ESG関連の投資判断は、定量的・客観的に行われている」という点と、
「ESGに関する(日本企業への)周知期間が終わった」という、
その2つが原因なのではないか、と思う。



1.「ESG関連の投資判断は、定量的・客観的に行われている」

オランダの年金系の投資家とか、スイスの投資家とか、一部ロンドンの投資家などは、投資する際にESGの観点を重視している。
で、ある企業がESGにしっかりと取り組んでいるか、をどう判断するかというと、Sustainalytics(スペル合ってるかな?)社のレーティングとか、MSCIなんとかインデックス(合ってる?)とか、そうした定量評価を用いてスクリーニングしている。

IRミーティングでその企業に直接「ESG面でどのような取り組みを行っているか?」と聞くこともあるが、ポイントは、それによって実際の投資判断はあまり影響を受けないのではないか、ということだ。
例外は、ESGファンドみたいに、モロにESGをテーマに投資をしているファンド。また、投資家サイドでESG専門の担当者を置いているケースもある。そういう系のミーティングでは、当然ESGの話が多く出るし、企業への取材が重要な投資判断材料になっている。)

例えば、ある日本企業のESG関連の取り組みについて、投資家が尋ねたとする。それに対し、その企業がいかにESGでがんばっているか、をしっかりと説明したとする。でも、「じゃあ買おう」とはならないのではないか、と思う。

ESGについては、もはや「ESGをがんばっていれば買う」ではなく、「ESGをがんばっていなければ買わない」なのだ。足きり条件なのだ。



2.「ESGに関する(日本企業への)周知期間が終わった」

じゃあ、少し前は日本企業のIRミーティングでESGの話題が出まくっていたのはなんだったのか。
思うに、あれは「周知期間」だったのではないか。
「我々外国人投資家はESGを重視していますよ、ESGってこういうことですよ、ESGがんばってくれないとファンドに組み入れられなくなりますよ、だからがんばってくださいね」
の期間だったのではないか、と思う。

日本企業がESGの重要性をよく理解した今、そうした周知活動の必要は無くなった。
そして、1.に書いた通り、IRミーティングでESGについて取材したところで、実際にESGを投資判断に織り込む際のプロセスはレーティングを元にかなり機械的に行われてしまっているから、仮にその企業がIRミーティングでESG系の取り組みをアピールしても、それは実際の買いにつながらない。

だから投資家は、ESGについてあれこれ言わなくなったのではないか。

アイロニカルなことに、最近では企業の方が逆に海外投資家に対し「ESGについてはどの程度重視されていますか?」みたいに質問するパターンが増えており、それに対し投資家が「非常に重視している、このベンチマーク/レーティングを見ている、だからがんばってください」みたいに返す例が増えている。



今後どうなるのか
思うに、「ESGに熱心に取り組む」というのはもはやGivenな条件であり、それは別にアピールポイントにならない。投資家ももう聞いてこない。
ESGにおいて非常に大事なのは、「ESGをがんばる」ことではなく、「そのがんばりをしっかりとSustainalyticsとかMSCIといった客観的指標に反映させること」だ。

そして、もう一つESGにおいてなにげに大事なのは、GRESBといったESG系の認証にあまり振り回されないことだと思う。ああいう指標はああいう指標で、ちょっとよく分からないところがある。

ESGにおいてやるべきことはしっかりやった上で、投資家がどのレーティングを見ているのかを冷静に見極め、最も効率的に、最低限の努力とアピール(と出費)でその肝心のレーティングを上げていくか、に注力するのがいいと思う。

以上、最近のIRにおけるチョイネタでした。

(完)


by dantanno | 2018-10-03 22:46 | IR通訳 | Comments(0)