イギリスの「問題」を考える④: 職員サイドの証言に見る、彼ら・彼女らのメンタリティー

(最初の記事はこちら


筆者はチキンである。小心者である。

だから、ロンドンの交通機関において故障や遅延などのトラブルに直面した際(つまり毎日)、内心憤っていても、表面上はおとなしく受け流している。文句を言う勇気など無い。

しかし、そんな筆者でも、ときどき、勇気を出して、職員に何かしら「言ってみる」ことがある。

また、筆者が何か言いたいのに言えずモジモジしていると、他の、筆者よりもはるかに勇気ある乗客らが職員に抗議をしたり、疑問の声を投げかけたりするのを多々目撃もしてきた。

ーーー

そうした乗客からの声に対する職員側の反応が、これまた実に興味深い。その反応から、彼ら・彼女らのメンタリティーが垣間見える、そんな貴重な「資料」のような気がするし、そのメンタリティーが「原因Y」、つまり故障時の初期対応、再発防止策および日頃の点検・整備の欠如につながっている気がするので、ここでいくつか事例を紹介した上で、そのメンタリティーを分析する。



<事例紹介>

事例① ヒースロー空港での自動チェックイン機

自動チェックイン機は結構便利なので、よく使っています。日本にもありますよね。特に、預ける荷物が無いときに便利ですよね。

この事例が起きた時は、自動チェックイン機が10台ぐらい並んでいて、たまたま僕が選んだ機械が調子が悪くて、うまくボーディングパスを出せなかったんです。で、隣の台に移って再度やってみたら、スムーズに発券できました。

ちょうど、近くにエアラインの担当者のおじさんが立っていたので、あくまでも親切心で、僕が最初に当たった機械が調子悪いことを教えてあげたんです。結局、その隣の機械で無事に発券できたし、僕としては全然不満に思ってもいなかったので、クレーム的な言い方ではなかったと思います。あくまでも「ご参考まで」的に、親切心で教えてあげようとしたんですよ。

僕 「あの〜、この機械、調子悪いみたいですよ」

それに対するおじさんの返しがふるっている:

「You can use the other machines (だったら他の機械を使えばいい)」

いや、まあそうなんですけどね。。。
これが事例①。



事例②: バスの「突然全員降りて」

これ、ロンドン・バスに乗っていると結構よくあることです。
どこどこ行きのバスに乗っていると、まだぜんぜん目的地(終点)に着いていないのに、突然アナウンスが流れ、「このバスはここで停まることになった。全員降りて」と言われるんです。返金とかも別になし(降ろされたバス停で次のバスを待ち、乗り込んだ際、「前のバスに降ろされた」と言えば無料で乗れる仕組み)。
恐らくダイヤの都合とかだと思うんですが、そういうことがよくある。

僕を含め、ほとんどの乗客は「えーーー」とか言いながらしぶしぶ降りるわけですが、中には運転手に食ってかかる乗客もいます。
先日、一人の女性が食ってかかっていました。

女性 「急に「突然降りろ」なんてひどいじゃない。そういうことなら、乗るときとか、もっと前に言っといてくれれば心づもりも出来るだろうに。いきなり言うなんておかしい!」

と、実にごもっともなことを言い出しました。筆者を含め、乗客たちはみな心の中で(そうだそうだ、もっと言ってくれ・・・)とうなずきながら、見て見ぬフリをしながら運転手さんの対応を見守ります。すると、

運転手 「オレだって今知らされたばかりなんだ!There's nothing I can do (どうしようもないじゃないか)」

それで一件落着(笑)。

(ちなみに、運転手のその回答を受け、女性に言ってほしかったのは、「別にあなた個人を批判・攻撃してるんじゃないのよ」ということ。
「あなた個人ではなく、あなたが属している会社、そしてそのシステム、仕事のやり方、それを批判してるの。それをなんとかしてちょうだい」と言ってくれればよかった。
まあでも、それに対し運転手は「会社に対する文句をオレに言われても困る。オレは一運転手にすぎない、There's nothing I can do」と返すに決まってますけどね。結局ナッシング・アイ・キャン・ドゥという、脱力系の結論になるわけです。)



事例③: ブリティッシュ・エアウェイズの大量キャンセル事件

以前、結構大きなニュースにもなったんですが、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)でシステムトラブルが発生し、その日と翌日のフライトのほとんどが大幅な遅延、あるいはキャンセルになるというハプニングがありました。
僕はちょうどその日、幸運にも(?)BAのフライトに乗ることになっていて、混乱のピークのさなか、ヒースロー空港のBAのラウンジにいました。幸い、僕のフライトは奇跡的に多少の遅延ですみ、ほぼ定刻通りに出発予定でしたが、他の乗客たちは大変です。ラウンジ内の画面を見ると、ほとんどのフライトがCancelledと表示されています。ラウンジ内のBAカウンターに詰め寄る客たち。それに対し、BA職員が執拗に繰り返していたアナウンスが以下の2つ:

"There is nothing we can do"
"We are doing our best"

"There is nothing we can do"は、一つ前のバスの運転手さんが言っていたことと一緒で、「自分らにはどうしようも無いんです」みたいな意味。

そしておもしろいのが "We are doing our best"だと思いました。「我々だってベストを尽くしてるんだ!」みたいなニュアンスでしょうか。

以前、日本で食品系のスキャンダルがあって、問題となった会社の社長が「私だって寝てないんだ!」と叫んで相当叩かれていましたが、それと同じ系統の発言でしょうか。当時、僕はすごくその社長にシンパシーを感じたものですが、日本の世間様からの叩かれようはすごかったですね。そういう意味では、僕も "We are doing our best"的な、イギリス的な考え方を理解する側面があるのかもしれません。




事例④: ホテルの朝食込み?別?事件

エジンバラのホテルに宿泊したときのこと。
そこはIRでよく泊まるホテルなので、ある程度勝手が分かっていました。で、いつも朝食は料金に含まれていないので、今回もそうだろうな、と思っていたら、フロントの女性が "Breakfast is included" みたいなことを言う。で、彼女が見せてくれた僕の宿泊台帳(?)みたいな紙のBreakfast欄を見てみると、「Included(込み)」の横の四角いボックスが蛍光ペンでしっかり塗りつぶされており、Not included(朝食別)の四角は空欄のままになっていました。

(へえ、朝食込みなんだ、珍しいな、うれしい♪)と思い、翌朝朝食を食べ、チェックアウトしようとすると、朝食代を払え、と言う。

いや、朝食「込み」って言われたから食べたんだけど、と説明(朝食代が「別」だったら食べなかった、というのも我ながらなんだかせこい話だな、と思いつつ)。それに対し、いや、込みなんて言ってません、込みじゃないです、の一点張り。
「ほら、宿泊台帳を見て」と言われたので見てみると、やはり、"Breakfast (included)"の真横の四角が蛍光ペンで塗りつぶされています。「朝食「込み」の四角が塗りつぶされてますよね、昨日これを見ながら説明を受けました」と(チキンながらも)一定の自信をもって僕が言うと、

 「この蛍光ペンは、朝食(込み)の四角が空欄であることを強調するために塗ってあるのよ。ほら、実際、四角にチェックは入っていないじゃないですか」

と猛反発。頼むからまぎらわしいことはしないでほしい(笑)。

その後も、ホテル側の主張をひたすら繰り返すだけ。

僕としては、別に大した金額じゃないし、払うのがイヤなわけでもないんですよ、別に。ただ、チェックイン時に「朝食込み」という印象を受けたこと、結局それは違っていたわけですが、実際そういう印象を受けたのは事実であること、を伝えたいだけなんですよね。だから、ホテル側が「分かりました、ウチの説明の仕方も分かりにくかったかもしれませんね」とかなんとか、それっぽいことを言ってくれればこっちもおさまるし、それで僕がホテル側の要求通り代金を支払えば、僕的にはそれでよかったわけです。でも、譲歩は一切なし

僕も、なんだかアホらしくなってきたし、もしかしたらチェックイン時に僕が聞き間違えた可能性ももちろんあるわけだし、要求通り朝食代を支払って一件落着。

ーーー

さて、4つの事例を紹介しましたが、いかがでしょうか。
日本で、職員・店員側のペコペコ対応に慣れているクレーマーやモンスター・ペアレントたちが目の当たりにしたら、驚愕すること間違い無し。

そうだ!
クレーマー化、モンスター・ペアレント化してしまった自分をなんとかしたい、もう一度正常に戻りたい、と思っている人は、ロンドンの地下鉄に乗ったらいい。全てが壊れているから。で、そのことについて駅職員に文句を言ってみたらいい。僕が通訳するから。あまりのカルチャーショックに、それまでの(日本での)クレーマーぶりはふっとび、一気に仏の心を手に入れられるでしょう。

ーーー

余談はさておき。
↑で見て来た職員サイドの発言・対応から透けて見える、その根本的メンタリティーは何か。それをいくつか抽出してみたいと思います。


by dantanno | 2018-06-26 00:32 | 提言・発明 | Comments(0)