昨年に続き、
第55回「宣伝会議賞」に応募した。
結果は、(昨年に続き)あえなく一次審査での落選だった。
この賞は、要するにコピー(キャッチコピー)を考え、応募する賞。
応募出来る部門としては、「コピー部門」や「CM部門」があり、いくつもの企業に何通でも応募出来る。
おもしろいのは、多くの企業がこの賞に協賛しており、それら企業の実際のコピーを考える賞である、という点。単なるアカデミックなイベントではなく、ビジネス、実務、実社会と密接につながっている点が好きだ。
プロのコピーライターはもちろんのこと、我々シロウトの中にも、いろんな商品やブランドのコピーを夢想して楽しんだ経験がある人はいると思う。
また、実際にCM等で使用されているコピーを見聞きし、不遜にも
(これで通用するの?だったら自分の方がいいコピーを思い付きそうだ・・・)などと妄想する人もいるかもしれない。僕もそう思ったりすることもたまにあるが、実際にコピーの賞に応募するとなると、いいコピーを思い付くのはなかなか難しいことに気付き、不遜だった自分へのいい戒めにもなる。
グランプリ作品はもちろんすごい。でも、それだけではない。
一次審査の入選者の一覧を見ていて(すごいなあ)と感心するのは、同じ応募者が、複数の企業のコピー部門やCM部門に多数入選している、そんな猛者がいること。
その人の名前をググってみると、プロのコピーライターだったりするのだが、それにしても実にすごい。
賞に参加している企業を一社選び、その会社やその会社の商品・ブランドについて、長い間考えに考え抜いて、その結果いいコピーをひとつ、あるいはいくつか思い付く、というのであればまだ分かる。それもすごく難しいことなのだが。
でも、この人たちがすごいのは、その作品が複数の企業で選ばれている、という点だ。
(一社で入選するのも大変なのに!)
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なぜ、自身がコピーライターではなく、コピーライターを目指してもいない僕(=通訳者)がこのような賞に年々応募しているのか。
それは、いい通訳者になるためだ。
この点については、通訳者になった頃に一度、結構考えた時期がある。
僕の場合、10年とか20年とかそういった悠長なスパンではなく、3年ぐらいで通訳のウデをかなり上げる必要があった(3年後に独立してエージェントを立ち上げる,という無謀な目標を持って証券会社のインハウス通訳者になったからだ。ちなみに、結果的に3年以上かかった。)
通訳のウデを一刻も早く上げるためには、
1.通訳の本番、およびそれに向けた予習、および通訳のトレーニング(リテンション、リプロダクション、メモ取りの練習、逐次・同通演習など)に専念するのがいいのか、
あるいは、通訳というものをもう少し広く捉え、
2,上記「狭義の通訳」関連の取り組みに加え、ことばに関連する他のいろいろな取り組みもした方がいいのか、
の2点で揺れ動いた。
通訳者の中には、1.寄りの人も2.寄りの人も、あるいはその中間のどこかの地点に位置する人もいるだろう。
「揺れ動いた」と書いたが、まあハラは最初から決まっていて、僕は断然2.のルートを選ぶことにした。一見遠回りでも、3年ぐらいのスパンで考えたとき、この適度な回り道(Detour)がちょうど良いだろう、と判断したのだ。
そして、何よりも僕は飽きっぽいので、通訳をあまり狭義に捉えてしまうと早晩飽きるだろう、という達観もあった。
では、「通訳そのもの」以外に、一体何をするのか。
これについても毎年熱心に応募し、毎年あえなく撃沈している。かすりもしない。(でも、今年は元教え子が見事入選したのでとてもうれしい。)
このブログを書くこともそうだ。
頭の中に何か伝えたいこと、相手に説明したいことがある場合、どうすればそれを分かりやすく説明出来るのか。それを日々トレーニングすることは、「話し手が言っていることを分かりやすく説明すること」とも定義出来る「通訳」という仕事をする際にきっと役に立つと感じた。
これは、直接的には実感しにくいが、きっと役に立っている、と思う。
話し手が話し終わった、その一瞬の間に(うーんと、今の話はどうやって説明すればいいかな・・・)と考える、そういう瞬間があるが、その作業を日々ブログ書きで経験しているのは多分役に立っていると思う。
コピーの賞である「宣伝会議賞」への応募も、この活動の一環だ。
コピーの対象(この場合は企業だったり、あるいはその製品やサービス)を説明する際、どうすれば「刺さる」のか。自分の思い上がりで放つことばは刺さらない(僕が毎年身をもってお示ししている通り)。やはり、聴き手の心に刺さらないといけないわけで、(このことばは、聴き手にどう伝わるだろうか・・・)を考える作業は,通訳力に直結する気がする。
毎年,優勝どころか一次審査さえも通らないということは、僕が放つことばがいかに独りよがりであるかの現れだ。(オレはコピーライターじゃないし(笑))などとうそぶいていてはいけない。ことばの専門家なんだから、グランプリとまでは行かないまでも、せめて一次審査を通る作品を1つでいいから作れないと恥ずかしい。
実際、落選が分かってから、自分が応募したコピーたちを改めて眺めてみて、かなり恥ずかしく思った。よくこんなので、(もしかしたら一次審査ぐらいは通過するかも♪)と思っていたなと、部屋で一人赤面した。。。
(そして、思い付いたことば/コピーをしばらく寝かせておく必要性も改めて痛感した。)
来年もぜひまた応募したい。
これからも、通訳というものをなるべく広く捉え、あらゆる「ことば関連の取り組み」に貪欲に取り組んでいきたい。それは通訳力アップのため、という口実もあるが、実のところ、単に楽しいからというのが大きい。