通訳の予習にかける時間がもったいない

フリーランス通訳者は、
ある日はIRミーティング、
別の日は尖閣問題に関する記者会見、
その次はウィスキーの品評会、などなど、
いろいろな分野を日々渡り歩いて通訳しています。

様々な世界を覗けるのが通訳の大きな魅力の一つ、と感じている通訳者も多いようです。
僕もそう思う。



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どの分野の専門家でもない通訳者が、
いろんな分野の専門家の話を上手に訳すために、必要不可欠なもの。
それは予習

通訳者は、売れっ子であればあるほど、日々予習をしています。



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「予習は、いいことか、悪いことか」
と聞かれれば、ほとんどの通訳者が「いいこと」と答えるでしょう。

そして、予習が「いいこと」なのであれば、
「予習に時間をかける」ことも、どちらかというと「いいこと」になるかと思います。

実際、真面目な通訳者ほど時間をかけて予習しているでしょう。



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僕は、予習は全然「いいこと」だと思っていません。
悪いことだと思っています。

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「予習=必要悪」ととらえている通訳者もいるでしょうが、僕は違います。
「予習=必要悪」という考え方で行くと、(まあ、しゃあねえか・・・)的になりがちですが、僕にとって予習は「必要悪」ではなく、純粋に「悪」です。

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僕がしたいのは「いい通訳」であって、「予習」ではない。
クライアントが求めているのは「いい通訳」であって、「予習」ではない。



予習=悪いこと、と断じると、当然
「予習に時間をかける」ことも「悪いこと」となり、
僕のような変人にとってのマイ・ルールは
予習にかける時間を極力ゼロに近づけよ、ということになります。



じゃあ、どうやって予習にかける時間を減らすのか。

1. 引き受ける案件を選別する

ちゃんと、その日に担当する分野についての知識があれば、予習なんてしなくてOKなはず。
知識が無く、そのままの状態で案件に突入すると大変なことになるから予習が必要になるわけです。

「エージェントから来る案件は基本的に(スケジュールが空いていれば)受ける」という通訳者もいます。
全然OKだと思いますが、僕がフリー通訳者だったらそうしないだろうなあ、と思う理由は、
僕の知識および通訳能力の水準に応じた、案件の適切な取捨選択を、エージェントが出来るとは思わないから。

英語もろくに出来ない(失礼・・)通訳コーディネーターに、
「この案件、ダンさんの通訳力ならOKかな、ダンさんにはちょっと難しいかな」
と判断されても困るし、More importantly, クライアントが困るだろうから、案件の選別は自分でやりたいだろうな、と思います。

どの職業でもそうですが、特に通訳のような職人的要素のある仕事の場合、
仕事を引き受ける/引き受けないの見極めがある意味一番大事だと思うので、そこを
スケジュールが空いていさえすれば引き受ける
とか、
エージェントから来た案件は基本的に受ける
としたくないわけです。



2. 覚えちゃう

例えば、IR Mtg.に向けた予習をしている場合。

D 「へえ、この会社は中国の珠海に工場があるんだ。。。 珠海って、英語でなんて言うんだろう・・・。 ふうん、Zhuhaiか」

その半年後。
D 「へえ、この会社は中国の珠海にある会社とJVを組んでるのか。 珠海って、英語でなんて言うんだろう・・・。 ふうん、Zhuhaiか」

その3ヶ月後。
D 「へえ、この会社は中国の珠海にR&Dセンターを設立・・・


いい加減覚えろよ



って話です。

上記1.に関連するけど、知らないから予習が必要になるわけで、一度珠海 = Zhuhaiって覚えちゃえば、もう二度とそこは予習しなくていいわけです。



3. 予習しなくていい内容は予習しない

詳細略
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4. 「予習にかける時間を減らしたい」と、本気で思ってみる

本気で
「予習大変!予習にかける時間を減らしたい・・・」
と思っている通訳者はほとんどいないと思う。

A. 予習=いいこと → 予習に時間をかけるのはいいこと、
あるいは
B. 予習=必要悪 → 予習に時間をかけるのはやむなし、
と思っている通訳者が多いのではないか、と推測します。



僕の場合、「予習=悪」ですから、

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予習時間を短縮したい本気で願っていて、例えばこういうことをしています。

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予習時間短縮用モニターです。
それだけのために買いました。

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例えば右側に短信を1ページ+α分表示し、

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左側で予習資料を作成する。
そうすると、画面を行ったり来たりする手間がちょっと省け、予習時間が0.1秒短縮できます。
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予習にかける時間を減らすことが出来れば、、、、、

その分、休むことが出来、万全の体調で本番に臨めます。(明け方まで予習してフラフラの通訳者の通訳なんて、誰も買いたくありません。)
その分、本を読んで勉強できます。(勉強と予習は全然別)
その分、通訳能力を上げるためのトレーニングが出来ます。
その分、同じ労力で引き受けられる通訳案件数が増え、サイコーです。

あ、あと、その分モニターを買ったり、設置したり、ブログを書いたりと、無駄なことをして遊ぶ時間を増やせます。
by dantanno | 2013-04-08 17:04 | プレミアム通訳者への道 | Comments(0)