たんのだんのブログ

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ビバ!結婚通訳 (完結編)

(前回の記事はこちら



Sam来日。
本番前に、まずは一度会って話そう、ということになりました。

僕の場合、どんな通訳案件でも、可能であれば関係者と事前に一度会っておきたいと感じます。
よくある事前ブリーフィングってやつです。

本件の場合は特にそう。

事前に会い、
・ 今、お二人が置かれている状況
  (越えなければならないハードルの話含む)
・ 当日どんな話をしたいのか
を聞いておきたい。

そして何よりも、
本件が、果たしてオレが通訳者として、いや、それ以前に男として、本気で取り組むに値する案件なのかを見極めたい
と思いました。何かエラそーだけど。



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会ってすぐ、
(あ、この人いいな・・・)
って思う感じってあるじゃないですか。
第一印象? 直感? 相性?
Samからは、真っ先にそれを感じました。



今の状況、あきこさんのこと、Samの気持ち・・・
いろんなことを聞きました。
IRISの話とか、そういう雑談もちょっとして、その日はお開きになりました。



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打ち合わせ会場となったホテルを出て、午後の並木道を歩きながら、
この人の役に立てるなら、全力で取り組んでみよう・・・
と強く思ったのを覚えています。



そして、もう一つ考えたのは、
本件における「成功」をどう定義すべきか?
ということでした。



お父さんがSamのことを気に入り、めでたしめでたしとなれば、とりあえずみんなハッピーでしょう。
でも、Samの発言を僕が、「お父さんの気に入るように」ヘンに調整し、それがために表面的に仲良くなってもダメだよなあ。

元々、国も文化も違うんだから、多少のズレはあって当たり前。
日本人同士だってズレまくりのことが多いし。
だから、ズレはあってもいいから心が通い合う手伝いをすればいいや、みたいなことをオチもなく考えました。
あんま正確に覚えてないけど。



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12月24日。
会食(本番)は、イブの日のお昼に行われました。



ホテルのロビーで待っていると、Samが登場。
一緒にいる女性があきこさんか。
そして、あれがあきこさんのご両親だな。



事前に聞いた話によると、
今日の主役の一人、お父さんは、チャキチャキの江戸っ子です。
下町エリアで建設関係のお仕事をしています。



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ロビーで挨拶した後、会場となるレストラン(Chinese)に移動する途中、
さっそくお父さんが話しかけてきました。



父 「ダンさんは、寿司は好きかい?」
D 「はい、大好きです。」



(今日は寿司じゃなくて、中華だよね、確か・・・)
と思いながら答えると、



父 「そうか、そうか。そりゃいいことだ。
今日は、寿司食えねえのが一人いるからな(笑)」




Samのことです。
おっと、いきなりの牽制球、って感じですね。

でも、僕はこの一言を聞いて、
今日、この場は必ず成功する
と確信しました。



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Samと僕は、先日の事前打ち合わせの際に、既に心を開き合っています。
そして今日、会って数分もしないうちに、お父さんは僕に対し、心を少し開いてくれたと感じました。

Samと通訳者、そして通訳者とお父さんが互いに心を通わせていれば、
通訳者を経て、必ずSamとお父さんの心が通じ合うはず。



また、通訳者に対してこんなにもすぐに心を開いてくれるお父さんが、
Samのような人に対して心を開かないはずがない。
いや、正確に言うと、お父さんは既にSamのことを認めている、と思いました。

お父さんの上記発言は単なるジョーク、照れ隠し、あるいは、ちょっとした憎まれ口だろうと判断しました。



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席につき、飲茶のコースが運ばれてきます。

上座の中央にお父さんが座り、その両脇をお母さんとあきこさんが固めます。
下座側はSamと、通訳者の僕。
典型的な「娘さんを僕にください!(feat. interpreter)スタイルです(笑)。



最初のうちは、参加者全員がぎこちない感じ。
軽い世間話があり、少し間があき、また軽い話題が続きます。



Samも、なかなか本題を切り出せずにいます。



コースも中盤にさしかかった頃。
あきこさんからのさりげない促しにより、いよいよSamが口火を切ります。



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まずは、今の状況の説明。

二人が一緒になるにはどういうハードルがあって、
それを乗り越えるために、今自分が何をしているのか。

そして、あきこさんに対する真摯な気持ち。



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必死でメモを取り、訳しました。
僕の本業であるIR通訳とはずいぶん違う内容です。
頭の中の、いつもと違う筋肉(笑)を使っているのが分かります。



特に意識したのは、お父さんの心に、訳がどう伝わるか、という点です。



僕が目指す「いい通訳」というのは、話し手が発した言葉を手がかりに、
話し手の心の奥を探りに行き、その人の想いを感じようとする通訳です。
そして、「その想いを別の言語で表現するにはどうすればいいか」をゼロから考えます。

Apple → りんご
ではなく、
Apple → "Apple"という言葉が表している想いは一体どんなものなんだろう? → 想いを理解 → その想いを日本語で表現するとしたら、どの言葉が最も適切だろう? → りんご
なんです。



そして、話し手の想いを考えるのと同時に、聞き手の心の中にも入っていきます。

訳を聞いて、聞き手はどう感じるだろう・・・

これを、訳を始めちゃう前に考え、それに応じて訳を修正します。



上記の例で言えば、僕の口から発せられた「りんご」という言葉を聞いて、聞き手がどう思うか。
ちゃんと、話し手の心の中にある"Apple"という想いに近いものになっているか。



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英語が分からないお父さんにとって、Samの言っていることを理解する手がかりはただ一つ、僕の訳しかありません。
そして、Samが言ったことを僕が正確に再現したからといって、Samの想いがお父さんに届いていなければ意味が無い。

「意味が無い」どころか、
父 「ダメだ、ダメだ! そんなヤツに大事なあきこを・・・」
となりかねません。

Samはこんなにいいヤツなのに、それが伝わらなければ僕のせいだと思いました。



かといって、発言内容やニュアンスを変えてはいけません。
聞いてる僕が「もっとこう言った方がいいのに・・・」みたいに思うところも、Samが言った通り正確に訳すべきです。



言っていることを正確に → 理性
Samの想いを感じ、それがお父さんの心に届くように → 情熱



僕の頭の中で理性と情熱が交互に入れ替わり、とっても混乱しました(笑)。



こういうとき、酒の力を借りるのも手だと思います。
実際、この日はみんなに薦められるままにビールを2-3杯飲みました。

あまりゴチャゴチャ考えるのをやめ、スッキリとしたいい訳が出てくるようになった気がします(笑)。



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Samの話を黙って聞くお父さん。
時折質問を返すところからすると、ちゃんと聞いてくれていて、話は噛み合っているようです。

でも、話が一通り終わっても、お父さんから結論めいた回答は出てきません。



そうこうするうちに、コースはデザートまで来てしまいました。

そのときでした。
お父さんの隣に座っているお母さんが、とっても小さく、さりげなく、
「お父さん・・」
と促しました。



D (ついに来るか・・・)
ペンを握る手に汗がにじみます。

そして、お父さんが話し始めます。



父 「今日話を聞いて、いろいろな状況や、Samの気持ちは大体分かった。
あきこは大事な娘だけど、そのあきこももう大人だし、人生、好きなようにさせてやりたい。
二人で力を合わせて、幸せになってくれよ。


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どっちが先だったかな、涙を浮かべたの。
あきこさんだったかな?お母さんだったかな。
ほぼ同時だったかも。



感動に包まれる上座側に対し、
ポカンとするSamと通訳者の下座側。



D (や、訳さなきゃ・・・)

って思うんだけど、言葉が出てこない。



話し手(お父さん)の心の中を感じようとすると、なんだかブワーッってなっちゃって、訳が出てこない。
でも、とりあえず何か言わなきゃいけないから、



D "He says it's OK"



ダメ、あきこさんとお母さんの涙見てると、マジこれしか言えない。

でも、これだけだとSamもかわいそうだよなあ。
"OK"なのが、果たして二人の将来なのか、あるいは今食べてる杏仁豆腐の味なのか、分からない。

だから、必死で補足しました。

D "He says that it's OK for you and Akiko-san to be together・・・"



一人称とか、三人称とか。
言ったことを全部訳してない、とか。
そういうところまで、アタマがどうしてもすぐには行かなかった。
(Samには、少し後でちゃんとした訳を説明しました。)



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食事が終わり、みんなでロビー階に下ります。

「今度、ゴルフに行こう」みたいな話をするお父さんとSam。
なんどもなんども僕に頭を下げてくれたあきこさん。
みんなのことを温かく見守るお母さん。

その日、家で僕のみやげ話を聞いて感動してくれた奥さんや義理の妹含め、
みんなにとって、最高のクリスマス・プレゼントになりました。
by dantanno | 2013-01-19 18:44 | 通訳 | Comments(7)
Commented by かたな at 2013-01-19 19:39 x
ダンさん、ご自分が通訳した内容をブログに書く許可をこの方たちから得ていますか?
Commented by ダン at 2013-01-19 19:59 x
かたなさん、はい、バッチリ得ています。
以前、Sam・あきこさん(いずれも仮名)とウチの奥さんの4人で食事した際、「名前を変えるから、ブログに書いてみたい」旨お願いしたら、あきこさんから「ぜひ書いてください」と言っていただきました。
その上で、満を持して書いています。
Commented by efendi at 2013-01-19 20:30
良いお話でした。
通訳業は広範囲な業界に及びますが、こういうシチュエーションでの通訳ってのはある意味責任重いですね。お疲れさまでした。
Commented at 2013-01-19 20:39
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by かたな at 2013-01-19 21:03 x
そうでしたら問題ありませんね。気になったものですから、つい質問してしまいました。
Commented at 2013-01-20 17:40
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2013-01-20 17:52
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。