たんのだんのブログ

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ヒューマン・ドラマ 「みそ煮込み」  <総集編>

シーン1 <すれちがい>



寒く、底冷えのする夜のこと。
オフィスを後にし、近所のみそ煮込みうどん屋さんに行きました。

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当ドラマのキャスト

みそ煮込みうどん屋のおばちゃん(ホール)
みそ煮込みうどん屋のおっちゃん(厨房)
みそ煮込みうどん屋の先客のおじさん
オレ



---



おばちゃん 「いらっしゃいませー。ご注文何になさいますか?」

オレ 「生ビールと、玉子入りみそ煮込みうどんください」

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このときの、オレの注文内容をよく覚えておいてほしい。
あとで重要になるから。



---



数分後。

おばちゃんが、キンキンに冷えた生ビールと一緒に、おでんの3種盛り(ちなみにこんにゃく、玉子、ちくわ)を持ってきてくれた。


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(写真はイメージです。)



おばちゃん 「はい、先に生ビールとおでんです」

D (とびっきりの笑顔で) 「へえ、おでんがお通しなんですか」
 
おばちゃん 「?  はあ、おでん、です・・・」 → そそくさと厨房に引っ込む





思えば、このときのおばちゃんの、まるで生乾きのような生返事に違和感を感じるべきだったんだ。
そうすれば、その後の悲劇を避けられたかもしれない。

しかし、そうするにはオレは腹が減りすぎていて、すっかり冷静さを欠いていた。。。





D (いいじゃないか、この店。お通しに「おでん」。なかなか斬新じゃないか。)

D (お通しにしては、やけにドカンと3種盛り。
こうなってくると、果たしてうどんを食い切れるかどうかが心配になってくるが、、、
いや、そういった勢い余る感もいいじゃないか。この店、気に入った!)



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(写真はイメージです。)




オレは、まずは大好物の玉子に食指を伸ばした。



玉子って、ほんとは行儀よく、ちゃんと箸で2つに割ってから(せめて)半分ずつ食べるべきなんだろうが、
ええいめんどくさい、丸ごと口に持っていき、半分食べてしまえ!

と、パクッとかぶりついたその瞬間・・・





おばちゃん   「お客さん、すいません、おでん頼みました






ンガググ!

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ちょ、ちょっと予想外の質問でした。




オレが、おでんを注文したかどうか。

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(写真はイメージです。)



いや、してないっす。



頼んでないんだとしたら、、、
今、お前の口から半分突き出ているその玉子はなんなんだ?

自分の、そしてきっとおばちゃんも頭に思い浮かべているであろう問いかけに答えられないオレ。





無残にも残り半分になった玉子と箸を置き、



D 「あ、あの、、、ビールとうどんは頼みましたけど、おでんは頼んでないです」



オレの、この精一杯の答えに対し、おばちゃんから驚愕の一言が・・・



おばちゃん 「いや、さっき頼みましたよね?」



D (へ?)



<シーン2: 確信>



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D (オレ、おでん頼んだっけ?)



おばちゃんがここまでハッキリと、一切の妥協と曖昧さを排除して言ってくるということは。。。



もしかしたら、オレはおでんを頼んだのかもしれない・・・、と思いかけたその時

ある大事な事実に気付きました。





D (そもそも、オレはこの店がおでんを供していることを、今こうしておでんを出されるまで知らなかった・・・)



メニューに載っていることを知らずに、果たしてその品を注文できるだろうか?
答えは、断固「否」である。

よほどの食通、よほどの常連でない限り、
「アレ頼むよ」
と、それがメニューに載っていることを知りもしないのに注文など出来ないはずだ。

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そして、オレがこのおでん屋、、、じゃなかった、みそ煮込みうどん屋に来るのは今日が初めて。

オレは、少し自信を取り戻した。






D 「いや、頼んでないと思います。」



おばちゃん 「そうですかあ?」 → (首をかしげながら厨房に戻る)





そして、厨房に向かって



おばちゃん 「なんか、頼んでないって。」



厨房のおっちゃん 「あ? 頼んでない、だぁ?(微怒)」




<シーン3: 離別>




ちょちょちょちょちょちょ、ちょっと、ちょっとすいません。
なんか僕のせいでいろんなことがややこしくなってて、とってもすいません。




どさくさにまぎれてこんにゃくを箸で断ち切ろうとしていた手を休め、考えます。



D (これは、一体どうしたもんか・・・)



先人たちのことが頭をよぎります。

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D (Steve Jobs、イチロー、田中角栄、孫さん、、、 誰でもいいや。
そういう大物だったら、この場合、一体どう行動するだろうか・・・。)


と考察を始めようとしたそのとき。



おばちゃんが再び出てきました。





おばちゃん 「あの、、、、、 おでん、頼んでないんですよね?」



D 「あ、は、あはは、は、はい、頼んでない、、、、、という気がします。」





オレ、この時点ではもう、自分の記憶に対する信頼係数はゼロ、いや、もうネガティブ。
おばちゃんにここまで言わせるということは、オレ、実はおでんを頼んだのかもしれない。もう分かんない。

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オレがおでんを頼んだかどうかは、もはや誰にも、そう、もちろんオレにも分からない。
そして、この世はオレ一人で構成されるわけでないんだし、いくらオレが「ある主張」を繰り返しても、それに真っ向から対立する声が存在する以上、もはやどちらか一つだけが一方的に、かつ絶対的に正しいなどと、誰が言えようか、いや、言えまい。




もう、認めてしまってラクになりたい。
しかし、犯行に関する供述の一貫性を保つという観点からすると、引き下がれない気持ちも強い。

ここで供述を覆したら、かえって怪しまれないだろうか。

そう。。。
「頼んでない」の一点張りで通す以外、オレにはもう選択肢がなかった。
オレは追い込まれていた。

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D  (ガックリうなだれながら) 「た、頼んでない、、、です。」



この後、おばちゃんが衝撃の行動を・・・





おばちゃん 「じゃあ、こちらは、、、すいません、ちょっと下げさせていただきます・・・」



<シーン4: 挫折>



中央から真っ二つに分断され、キレイな満月を白日の下にさらしている玉子

箸での執拗な断ち切り作業に対し、懸命に抵抗した痕跡をその側面にかすかに残し、まだ張力を十分には回復していないこんにゃく

そして、全く世間の荒波にもまれていない、純粋無垢のち・く・わ



例え僅かな時間だったとしても、オレが一時心を通わせた相手たちが、
オレの目の前から取り上げられ、スゴスゴと厨房方面にUターン





一人残されたオレの、このバツの悪さ
オレの乏しい筆力では、到底読者に伝えられないであろう。

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---





なぜ、オレだけが残ってしまったのか。
どうせなら、オレもあいつらと一緒に厨房につれて行ってほしかった。。。
そうした罪悪感に苛まれること約10分ののち。




おばちゃん 「お待たせしましたー、玉子入りみそ煮込みうどんでーす。」

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オレが所望した玉子入りみそ煮込みうどんが無事供され、ようやく気まずい雰囲気が断ち切られるまでの時間は、
店内の壁に掛けられた街のしんらいパートナー、**信用金庫寄贈の時計の上ではほんの10分そこらだったのだろうが、
罪の意識に苛まれるオレにとっては、それはまるで永遠に続く苦行のような、永い永い時間であった。





D (おいしそう♪)



あっつあつの玉子入りみそ煮込みうどんが放出する湯気にすっかり気を取り直した塩梅のオレ。



うどんもうれしいが、それよりもうれしいのは、この美しい均衡状態。

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頼んだものは今、目の前に出されていて、
頼んでいないものは出されていない。

こういうちょっとした「当たり前」が、実はこんなに幸せなことだったなんて。。。
オレは病み上がりの風邪っぴきのような心持ちになっていた。





フーフーハーハー、うどんと格闘すること数分。





ふと、ホールの向こうの方でなんかゴソゴソやってるのが気になり、そちらを見やると・・・・・




<シーン5: 挑戦>



おばちゃんが、オレが店に入る前からテーブルについていた先客のおじさんに対し、





おばちゃん 「おでん、大~変 長らくお待たせしましたー」

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D (ま、間違えたのか?)





オレが店に入る前、先客のおじさんが頼んだおでんを、間違えてオレのとこに持ってきたんだな?
そうなんだな?

だから、あんなに確信を持って
おばちゃん 「いや、お客さん、おでん頼みましたよね?」
って感じだったんだな?



きっとそうだ。





全ての謎が氷解した瞬間だった。







しかし、、、、、

人間というのは不思議なもので、
一つ謎が解けると、すぐまた次の謎を求める傾向がある。



さっきまで、あれほど自分を悩ませていた謎が解けたと思った途端、安堵に浸るのもそこそこに、次の、それもさっきよりも深い謎を求めてしまうオレも、そうした人間の性から逃れることは出来ないのであろう。





もし、もしですよ、、、

仮に、いや、あくまでも仮定の話ですが、、、






D (もし今、オレがおでんを頼んだら、一体どうなるんだろう・・・)



<シーン6: 疑問>



恐ろしい、悪魔の発想です。
でも、想像するだけならば、罪にはならないはず。




もしオレが

D 「あの、すいません、やっぱおでんください」

って言ったら・・・






登場人物それぞれの立場に立ち、想いを想像してみましょう。





先客のおっちゃん 「真似か?」



おばちゃん 「『やっぱりください』って、ホレ見なさい、やっぱりさっきおでん頼んだんじゃないの」



厨房のおっちゃん 「今度こそ、ほんとだろうな(怒)」





厨房のおっちゃんの(怒)はごもっともです。
僕は既に、オオカミ少年ならぬ、おでん少年の烙印を押されているのです。

実は注文していないのに、おでんを頼んだかのように装い、玉子を半分たいらげ、こんにゃくを傷つけようと(これは未遂)した罪は、オレがこの先の人生で何をしようと、一生消えずについて回るのです。



そんなオレが、どのツラ下げて
「やっぱおでんください」
って言えるのか。

仮に言えたとして、一体誰がそれを信じるだろうか。





もう一つ、疑問があります。
もし、オレが今おでんを頼んだら、、、、、



出てくるおでんの玉子は、1個まるごとか、あるいは半分か?



<シーン7: 望郷>



も、もちろん、スジとしては1個まるごとであってほしいという想いが結構強いです。

だって、今回の注文は、さっきの注文、、、、、 いやちょっと待って、さっきは注文してないと思うんだけど、仮にさっき実は注文してたとして、そのさっきオレがした注文と今回オレが新たにする注文は、それぞれ全く別の独立した注文だから。





でも、そうして望み通り1個まるごとの玉子が出てきたら、とりあえずうれしいかもしれないけど、でも、、、
何か。何かが気にかかる。


そう。
さっきオレが「注文していない」のに出てきたおでんは、一旦オレに供された後没収され、その後どうなったのか。
そして、あの食いかけ半玉子の行方は?



まさか、、、先客のおじさんのおでんにオレの半玉が流用されたわけではあるまいな、と思い、おじさんのおでんを確認しようと背伸びするも、おじさんの隣のイスにかけてあるトレンチコートがオレの視界を遮る。





オレのおでん。
元気よく故郷(厨房)を飛び出し上京したものの、世間から「お前なんて注文してない」と言われ、玉子を半分食べられただけですごすごと故郷にとんぼ返り。
錦を飾るどころか、地元でとんだ恥さらしになっているかもしれないくいかけおでんのことを考えると。

そして、そのくいかけおでんの中央で、こんにゃくとちくわをやさしく照らし続ける満月半玉のいたいけな姿を思いやると、、、



D 「さっきの、あの食べかけの玉子でいいから、いや、「でいいから」とかじゃなくて、あの玉子いい、オレにはあれしか無いから、あれをもう1回出してくれ!早く!!!」

と、思わずありったけの大声で叫び出したくなる。



<シーン8: ときめき>



それに、、、
栄養学的な見地からすると、

さっきのおでんのときに食べたかけた玉子半分と、
今、目の前にある玉子入りみそ煮込みうどんに入ってる玉子1個(推定)と、
後から(今度は本当に)注文したおでんに入ってる玉子がもしまるごと1個だったら、、、



玉子なんこ食べてんだよ



って話にならざるをえない。






D (うん、やっぱり玉子は、半人前のあいつがいい♪)



と思ったそのとき、、、、、




おばちゃんが、厨房からホールを横切り、こちらに向かってきます。

よく見ると、手になんか一皿持ってます。





え?




まさか、、、

お、おでん?




おでんがメニューにあることすら知らないのにおでんが出てきちゃうほどおでん一触即発な店にいながら、
いくら想像とはいえ、あんなにもリアルにおでんを注文するシーンを思い浮かべ、かつ、その玉子が半玉か、フル玉かまでをあれこれ頭に思い描いたとしたら、、、
知らずの内にそれが実質的な注文につながり、厨房にれっきとしたオーダーが通り、実際におでんが出されたとしても、何らおかしくない。いや、むしろ、当然の流れではないか。





D (結局、オレはおでんを食うのか・・・)

そして、

D (今度こそ、潔く「ハイ、確かに私が頼みました」とお縄を頂戴しよう・・・)





とオレが決意しかけていると、、、





おばちゃん 「コレ、どうぞ」




おばちゃんが持ってきたのは、おでんではなく、お新香でした。



D (いや、おしんこ頼んでな・・・)



おばちゃん 「ワタシ、さっき間違えちゃったの、ごめんなさいね。 コレ、よかったら食べて♪」





かわいい・・・




それ以来、そのお店とは仲良くさせてもらってます。
by dantanno | 2012-12-14 14:41 | プライベート | Comments(0)