IR通訳のジレンマ
2012年 09月 26日
最近のブログ、どうでもいいことばっかり書いてて、肝心のIR通訳に関するネタが少ないことに気付いた。
そこで、前からずっと書きたかった、IR通訳のジレンマについての僕の仮説を書いてみます。
よければ読んでくださいませ。
以前、通訳のジレンマって記事を書きました。
アフリカの、架空の国の大統領が来日した、という設定で。
このときのKey messageは、
通訳ってのは、実に因果な商売。
なぜなら、
自分の存在を最も必要としてくれている人からは、評価されようがなく、
自分のことを高く(あるいは低く)評価してくれる人からは、存在を求められていない。
ってことだったかと。
覚えてくれてる人、いるかな?
この通訳のジレンマは、当然ながらIR通訳にもあてはまります。
ただ、IR通訳の場合、IR通訳に固有の2つの特徴のおかげで、
この通訳のジレンマ以外にも、IR通訳のジレンマ
とも呼べるジレンマが2つ起きるんです。
今日はそれについて書いてみようと思うんです。
IR通訳の現場となる、IRミーティング。
参加者は、以下の3者です。
投資家
企業のIR担当者
IR通訳者
この参加者の顔ぶれ、よく覚えておいてください。
これが、IR通訳の2つの特徴の源泉で、ここから2つのジレンマが引き起こされます。
参加者について、もう一度見てみましょう。
投資家
企業のIR担当者
IR通訳者
もっと近くで見ると、あれれ、なんだか文字が見えてきます。。。
(日本語が全然分からない)投資家
(英語が全然分からない)企業のIR担当者
IR通訳者
賢明な読者のみなさんには、もう1つめのオチが分かっちゃったかもしれないけど、
一応書いてみます。
フツーの、IR以外の通訳案件(例えば記者会見とか、ちょっとしたイベントでの通訳)の場合。
会場には、たいていバイリンガルの人がいます。
でも、IR通訳の場合、現場にいるのは
(日本語が全然分からない)投資家
(英語が全然分からない)企業のIR担当者
IR通訳者
の3人だけ。
バイリンガルなのはIR通訳者本人だけで、会場にいる2人は全然バイリンガルではありません。
特徴 1: バイリンガル不在の現場
それによって引き起こされるジレンマは、ズバリ、
ジレンマ 1: 通訳のブラックボックス化
です。
例えばこういう場合:
(日本語が全然分からない)投資家
(英語が全然分からない)企業のIR担当者
(超上手な)IR通訳者
超上手なんだけど、それを評価できる人がいないでしょ?
で、恐いのは逆の場合。
(日本語が全然分からない)投資家
(英語が全然分からない)企業のIR担当者
(超残念な)IR通訳者
通訳が超残念なんだけど、その残念さに気づき、残念がる人が誰もいません。
で、何が起きるか。
投資家が、
「この会社、言ってることが全然分かんないし、Q&Aが噛み合わないよ。ダメだな、こりゃ。売り、売り♪」
となってしまうんです。
負けず嫌いな海外投資家が、最も嫌うモノ。それは、何かを
理解出来ない
こと。
その投資家自身が投資の意思決定者である場合(CIOとか、Portfolio managerとか)、
分からないものには投資できません。
あのウォーレン・バフェットもそう言ってます。
では、投資家がBuy-side analystとかで、自身が意思決定者ではない場合はどうか。
日本での、1週間のIR取材を終え、本国に帰国し、上司(Portfolio manager)に
「A社はどうだった?」
と聞かれた際、
「分かりません」
だと、2秒ぐらいでクビになるわけです。
なので、テキトーにゴタクを並べることになるわけですが、自分が意思決定者である場合同様、
分からないものを買い推奨することなど出来るわけがなく、結局
投資をやめといた方がいい理由をあれこれ並べることになります。
いずれにせよ、我らが日本株式会社にとって、大きな損失です。
せっかくいいモノを持っているのに、投資してもらえないA社は損。
株式の注文が入らない証券会社も損。
今後、その投資家とA社の間での継続的なアップデートのためのIRミーティングが無くなるので、通訳会社+通訳者も損。
そして、せっかくいい投資対象が目の前に転がってたのに、それに投資できなかった投資家も損。
みんな損します。
さて。
一気に気分が暗くなったところで、2つめの特徴+ジレンマに行きますか。
しつこいけど、もう一度IRミーティングの参加者をおさらいしましょう。
投資家
企業のIR担当者
IR通訳者
気付いちゃった?
気付かないよね、フツー。
じゃあ、種明かししちゃいます。
特徴 2: クライアント不在の現場
そう。
クライアントが現場にいないんです。
IR通訳のクライアントって誰ですか?
投資家ですか?
企業ですか?
ま、そういうケースもありますけど、圧倒的に多いのが
証券会社がクライアントというケース。
そして、証券会社の社員は、えてしてIRミーティングに同席しません。
So what ?
それが、一体どういうジレンマを引き起こすのか。
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例えば、パーティー。
みなさんは、パーティーの主催者の場合と、一参加者の場合と、両方あるでしょう。
もし、どこかの会場を借りて、みなさん主催のパーティーを行ったとしましょう。
その際、その会場の掃除がされておらず、汚かったとしましょう。
なんとかパーティーは無事終えたものの、主催者であるあなたとしては、せっかく高いカネ払ってるのに、会場が汚かったことがやはり気になり、パーティー会場を運営する会社にクレームを入れるかもしれません。
では、もしあなたが主催者ではなく、一参加者にすぎなかった場合はどうですか?
仮に会場が多少汚かったとしても、
「せっかく主催者が手配してくれた会場なんだし・・・」
「私が会場を手配したわけでもないし、私が文句を言うのも・・・」
そして何より、自分がお金を払っているわけではない以上、そもそもそこまで不満を感じない、という場合が多いと思います。
さて、通訳に話を戻します。
フツーの、IR以外の通訳案件(例えば記者会見とか、ちょっとしたイベントでの通訳)の場合。
たいてい、クライアントの人が現場にいます。そして上述した通り、バイリンガルの人も。
もし通訳が超残念だったら、
1.バイリンガルの人たちがそれに気付くし、
2.クライアントがクレームを入れてくる可能性がとても高い。
でも、IR通訳の場合、現場にいるのは
投資家
企業のIR担当者
IR通訳者
の3者だけ。
バイリンガルの人もいないし、お金を払っているクライアントもいません。
ジレンマ 2: 通訳がヘタクソでも、クレームが入りにくい
IR通訳者になって、つくづく学んだこと。それは
問題が発覚しないからといって、問題が存在しないとは限らないということ。
むしろ、実は問題が存在するのに、それが発覚しないという意味で、問題はより深刻だとも言えます。
証券会社のみなさま。
IRミーティング終了後、通訳者は「問題無く終了しました」と言ってくるでしょう。
そして、投資家・企業から通訳に関するクレームが入らないからといって、通訳に問題がなかったとは限らないんです。
投資家・企業が分かり合えておらず、今後の株の売買が減る可能性があります。
これが、我らが愛しのIR通訳。
1.ブラックボックス化しちゃってて、
2.ヘタクソでもクレームが入りにくい
分野で、ハイ・クオリティのIR通訳を売る、という、
まるでエスキモーにガリガリ君を売るような商売をしているのが我々IRISです。
当然、勝算があってやっているわけで、それについてはいつか書いてみるかもしれません。。。
今回はIR通訳に特化したお話でしたが、確かにそうですよね、、、
質について評価されない(にくい)のに技を磨くのは高い職業意識(と、対象に対する専門知識)が必要ですよね。
まだ訓練もきちんと始められていない私ですが、IR関連の知識は積み上げているつもりです(!)。
引き続き色んな発信を楽しみにしています。
IRの分野では、企業側のIR担当者の英語レベルが徐々に上がってきています。
それは、一見IR通訳業界にとってNegativeなこと(通訳者不要になってしまうので)ですが、我々のようなハイ・クオリティの通訳を追及するエージェントにとっては、「他エージェントとの差を実感していただける」という意味で、非常な追い風だと思っています。
lightpurpleさんの合流をお待ちしています!またオフィスにも遊びに来てくださいね。