たんのだんのブログ

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ムハマド・ユヌスさんの通訳をしてきました (完結編)

タイトルに「通訳」ってあるくせに、もはや完全に翻訳ネタになっているこのシリーズ。
ここらで完結させます。



前回の記事で、千葉氏の翻訳にあれこれとイチャモンをつけたような格好になっている僕。



<余談>
千葉さんも大変ですよね。
こうして、見ず知らずの通訳者から、自分の訳についてゴチャゴチャ言われるわけですから、たまったもんじゃないですね。。。
まあ、翻訳なり、映画なり、ベンチャー企業なり、何かしらの作品を、自分の名前の元に世に問うことに伴うコストなんでしょうが。
<余談終わり>




くどいですが、決してイチャモンをつけたいわけではなく、千葉氏の訳を批判したいわけでもありません。
千葉氏の方が、翻訳者として自分よりも上だ、というのを認めた上で言っています。



結局、何を言いたいのか。
絵に描くとこんな感じ。



d0237270_1818169.png



千葉氏の方が、オレよりも翻訳の能力が上。

上なんだけど、でも、
ココに注目!


d0237270_18241775.png



数カ所、線が逆転してるとこがあるでしょ?これは、
僕から見て、千葉氏の翻訳に対し物言いをつけたくなる箇所
を表したつもりです。

Wimbledon風に言うと、
千葉氏の訳に、僕がChallengeをしたくなる箇所
です。
d0237270_1901792.jpg


例えば、前回の記事の
D 「ココは「私」よりも「我々」の方がいいんじゃないですか?」
と思える箇所のことです。



ここで注意したいのは、
千葉氏がミスを犯していて、僕がそのミスに気付き、それを指摘している
のでは全然無い、ということ。

そうじゃなくて、
訳について、協議の余地があるかもしれない
と思える、ということです。



千葉氏は「私」と訳した。
それに対し、僕は「『我々』の方がいいのではないか」とChallengeする。
そのChallengeに対し、千葉氏が「いや、それも考えたんだけど、ここはこうこうこういう理由で「私」の方がいいと思った」と説明し、
それを受けて僕が「なるほど、ごもっともですね。」となれば、「私」のままにしておけばいいし、
僕のChallengeを受けて、千葉氏が「確かに「我々」の方がいいかもしれない」「ということであれば、「我々」に変えてもいいのかもしれない。



<余談>
逆に、
僕がまず最初に訳して、
それを千葉氏がChallengeする、という順番にしてもOKです。

ただ、千葉氏の方が実力が上なので、その順番でやるとこの通り
d0237270_18391354.png
Challengeできるとこだらけとなり、非効率。
やっぱ、最初は上手な人がやった方がいいんでしょうね。
<余談終わり>




さて、仮に僕が3つChallengeをして、協議の結果、2つについてはそのChallengeが通り、1つについては、元の訳のままで行こう、ということになったとします。
そうすると、こんな感じ:

d0237270_1845526.png



線が、前より上がってるでしょ?



3つあるうちの、真ん中の谷の部分は、
「Challengeがあったものの、結局元の訳のままで行くことになった」箇所です。

結果的に訳が変わっていないので、線の位置も変わっていませんが、ここについても、以前よりよくなっていると思います。

訳の文言が以前と全く同じであっても、一度Challengeされ、それを乗り越えた訳というのは、
Challengeを全く受けていない訳と比べ、深み・厚みがあるから。

今後、誰かに
「ココの訳、こうした方がいいんじゃないの?」
と言われたときに、
「いや、そこはですね、こうこうこういう理由で・・・」
と言えるようにしておくのは、翻訳者として実に気持ちがよく、大事なことだと思います。



こうした作業を、仮に「共著」ならぬ「共訳」と名付けます。
既に、本によってはこの手法を取っているものもありますから、何も新しい概念ではないと思いますが、
世の普通のビジネス本などで、「共訳」というのはあまり例がありません。
ユヌスさんの本しかり。


もし、たった2人で共訳しただけで、少し訳がよくなるのであれば、
世の翻訳について、全部訳者5人ぐらいでやったら、翻訳書のレベルもすっごく上がりそうですね。

「後からチェックする、共訳者の手間が・・・」
って、確かにそうなんですが、本をゼロから全て訳すことの手間と比べれば、
「人様の訳を拝見し、意見を申し上げる」
なんて、へのかっぱ。
実際、今回ユヌスさんの原書と訳書を見比べて、Challengeしてみたい点をリストアップするのは、実に簡単な作業でした。



出版社のみなさん、ぜひこうした共訳書をもっと増やしてください!
日本の翻訳の水準が上がるし、翻訳者の仕事も増えるし。

あと、最後に千葉さん。
お会いしたこともないのに、勝手にあれこれ意見をしてすいませんでした。
日頃、「いい翻訳だな」と思える訳に巡り会うことがめったに無いので、柄にもなく熱心に英日を対照してしまいました。。。

いずれお会い出来るのを楽しみにしています。
by dantanno | 2012-08-22 19:06 | プレミアム通訳者への道 | Comments(1)
Commented by Shira at 2012-08-29 22:02 x
なるほどー。

こういう展開だったのですね…。

(私のコメントへのお返事は必要に応じてお願いしますね。適当に放置しておいていただいてかまいませんので…。)