たんのだんのブログ

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ボンガワンガ共和国大統領のスピーチにみる「通訳のジレンマ」

通訳ってのは、実に因果な商売です。



「因果な**」って、訳しにくいですね。

「因果」を辞書でひくと、
unlucky/unfortunate
とか、
poor/lousyとか。
大辞泉だと、宿命的に不幸なだって。

結構ネガティブな訳が多いですね。

冒頭の一行であれば、「大変な」ほどの意味でしょうから、訳すとしたら、例えば
Interpreting is a really tough job
とかかなあ、僕だったら。

ちなみに、この訳に対し、「いい」という通訳者もいれば、
「ハ?違うでしょ」という通訳者もいるでしょう。

そして、ハ?派の人たちに、
D 「じゃあ、どういう訳ならいいんですか?」
と聞いてみたとして、出てきた訳を僕が気に入るかどうかは分からない。

実に因果な商売たる所以です。



通訳者が全員そうかどうか知らないけど、僕は↑のような言葉遊びが大好きです。

TVを観てても、
D (あ、今の、オレだったらどう訳すかな)

とか、
D (今の字幕、芸術的だなあ・・)
とか。

ブログを書いてても、
D (TVは「見て」か?それとも「観て」か?集中してWatchしてる感じを出したいから、「観て」を使うか)
とか、
D (あえて話し言葉調にしたいから、「観ていて」ではなく、「観てて」にしてみよう)

とか。



こういうめんどくさいのがね、

マジ大好きで、楽しくてしょうがない んです。

因果だろ~?
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通訳という商売の因果さについて、みなさんに知っていただくために、以下の架空のストーリーを考えました。
ご一緒に、この因果な感じをお楽しみください。

はじまりはじまり~



アフリカのボンガワンガ共和国の大統領が、国賓として日本へ。
来日中、日本の人たち向けに、「今後の日本・アフリカ間の友好」と題し、スピーチを行います。



あなたが、「このスピーチを聞きたい!」と思ったとしましょう。

あいにく、スピーチはボンガワンガ語で行われます。

しかし、幸運なことに、大統領専属の通訳者である、ツヤク・インガ氏が同行しています。
当日は、インガ氏が日本語に通訳するそうです。
それだったら、あなたもスピーチを「聞く」ことが出来ますね。

インガ氏は、ボンガワンガ生まれのボンガワンガ育ち。
でも、なぜか日本語がペラペラだと仮定しましょう。



当日。
予定通り、大統領がスピーチを行い、イベントは無事終了しました。

インガ氏の通訳のお陰で、大統領のスピーチの内容がよく分かり、とてもよかったと喜ぶあなた。
そんなあなたに質問です。

D 「インガ氏の通訳、上手でしたか?」


さて、、、あなたならなんと答えますか?

あなた 「いやあ、それはもう。とっても流暢な日本語で・・・」


D 「それは、「日本語が上手」だっていう話でしょう。そうじゃなくて、「通訳は上手」でしたか?」

さすが、言葉にこだわるオトコ。みみっちい+ウザいです。
でも、確かに上記2つは似て非なるものですよね。 
(世の通訳者たちの「激しく同意!」が聞こえてくる気がします)


あなた 「スピーチの内容がとてもよく分かったし、上手な通訳だったと思うけど・・・」

これも、「通訳が上手」とする決め手にはなりません。

「分かりやすい訳」というのは、確かに大事なポイントですが、
そもそも、大統領の話し方が「分かりやす」かったのかもしれないし。

あと、仮に内容が分かりやすかったとしても、
実は、大統領が話した内容は、インガ氏の「訳」とは全く異なる内容だったかもしれません。
その場合、いくら分かりやすくても、「上手な通訳」ではありません。



果たして、インガ氏の通訳は上手なのか、ヘタなのか。

残念ながら、それはあなたには分かりません。

なぜ分からないかというと、あなたはボンガワンガ語が分からないから。
原語と訳を比較対照しようがないんです。



一方、、、、、、、、
当日、スピーチ会場には、在日ボンガワンガ大使サダ・アンバ氏も出席していました。

日本歴かれこれ10年のベテランであるアンバ氏は、日本語を自在に操ります。
彼は、大統領のスピーチと、インガ氏の通訳を両方聞き、
インガ氏が上手に通訳していることを確認。
スピーチ終了後、大使に"Good job!"と褒められたインガ氏は喜びましたとさ。

めでたしめでたし




さて。
What's the moral of this story?
このストーリーから学べることは何か。



ストーリーには、「大統領」「インガ氏(通訳者)」という、2人の話し手と、
「あなた」「アンバ大使」という、2人の聞き手が登場しました。

そして、あなたは、ボンガワンガ語(以下BW語)が分からないから、
インガ氏の通訳のウデを評価することが出来なかったわけですが、
皮肉なことに、あなたはBW語が分からないからこそ、インガ氏(=通訳者)のサポートを必要としているのです。

一方、アンバ大使は、BW語と日本語両方が分かるからこそ、インガ氏の通訳のウデを評価できたのですが、
BW語と日本語が両方分かるということは、インガ氏の通訳を必要としていない、ということになります。



ああ、因果。



自分の存在を最も必要としてくれている人からは、評価されようがなく、
自分のことを高く(あるいは低く)評価してくれる人からは、存在を求められていない。

この矛盾を、僕は勝手に「通訳のジレンマ」と名付け、いろいろと考えてきました。
そして、この通訳のジレンマにこそ、
日本のIR、および日本のIR通訳の大きな問題点が隠れているのではないか、と思っています。

逆に言えば、そこが大きなビジネスチャンスになりうる、ということ!

<続く>
by dantanno | 2012-04-11 20:04 | 通訳 | Comments(2)
Commented by lightpurple at 2012-04-13 10:20 x
私も頻繁に見に来るコア閲覧者(?)の一人かと思いますが、このジレンマは大変興味深いし考えさせられますね。
私自身、バイリンガル(に近い?)かと一応自負しているのですが、自分が子どもだった自分と比べ、英語自体ができる人は圧倒的に増えている中、どの程度通訳の需要があるのだろう?と思うこともあり(通訳を目指しておきながら矛盾するようですが)。
IR通訳はただの通訳ではなくてむしろ本当の意味の懸け橋となるコンサル的なものを目指すイメージなのかしら、と考えたり・・・
次の投稿も楽しみにしていますし、ワークショップも、今仕事の日程を調整中なのですが、一度参加させていただくことも考えています。
引き続きよろしくお願いします。
Commented by Dan Tanno at 2012-04-13 12:45 x
lightpurpleさん、ありがとうございます。
以前もコメントいただきましたよね。ブログを読み続けてくれてうれしいです。

おっしゃる通り、日本人の(IRで言えば、企業のIR担当者の)英語リテラシーが向上する中、通訳業界は今後どうなっちゃうんだろう、という感じですよね。

僕も先日、回った企業が7社連続英語対応ということで、
さすがに心中寒風が吹きすさびました。。。

これは、日本全体にとってはいいことですが、我々通訳者にとっては間違いなくネガティブだと思います。マーケットが縮小するわけですから。

でも、みんなの英語力が上がってくる、ということは、通訳者のウデの見極めが出来るようになってくる、ということでもあります。

今まで、とりあえず「訳せりゃいい」的な感じだったのが、「上手に訳してほしい」となってくると思います。
そうなると、IRISのようにハイ・クオリティに特化した通訳会社(あまり類を見ない)にとっては、大変な追い風になると思っています。

ぜひ一度、Workshopにも遊びにいらしてください。

ダン