通訳者選考を終えて

開業前の、最後かつ最大の大仕事: 通訳者の選考。

IRISは、ハイ・クオリティのIR通訳をウリにするわけだし、
今回は会社のFounding & starting members072.gifを選ぶわけです。

例えが不適切かもしれないけど、
味に徹底的にこだわる一流の料亭/レストランにとっての、食材の仕入れ
のようなもの?

この選考がIRISの命運を左右します。



今回、選考というプロセスを通してやったこと、感じたこと、学んだことを、
備忘録的に書いておこうと思います。



● 厳選、厳選、厳選!

昨年、12回かけて行った勉強会。
正確に数えていないけど、40-50人の通訳者が参加してくれました。

その通訳者たちに対し、
D 「IRISの選考は厳しいです」
とさんざんWarningを出し、
それでも「受けたい」と言ってくれた猛者たち20人。

その中から、7人を選抜しました。

倍率は、3倍とも言えるし、そもそも選考を受けるかどうかで既に選抜されている、と考えれば、約6-7倍の倍率となりました。

正直、
今回選ばなかった人の中には、実は「選ぶべきだった」という、もったいないケースもあると思います。
(そういう方については、今後もあきらめないでくれれば、こちらもあきらめません。)

でも、
今回選んだ人の中には、「実は選ぶべきではなかった」人はいないと確信しています。
(Please prove yourselves!)

それぐらい、厳選に厳選を重ねました。
最初はSmall startでいいんだ・・・、と何度も自分に言い聞かせ。
IRISは浮利を追わなくてOK!



● どうやって選考したのか

実技テストの日程は、全部で5日間。
その後、これまた数日をかけて審査しました。

実技テストでは、事務局で作った、簡単な摸擬IR会議を聞き、逐次通訳してもらいました。
所要時間は、通訳を入れて、計8-9分ほど。

テストの題材は、非常にシンプルなものにしました。

難しくした方が差が出ていいかな、とも思ったんですが、
フタを開けてみれば、シンプルにして大正解でした。

難しい内容にしていたら、多分評価のしようがなかったと思うのに対し、
シンプルだったおかげで、一人一人の特徴や性格がよく出たと思います。



● 全員受験

今回、候補者全員に選考テストを受けることを求めました。
どんなに実力がある(とされる)人でも、免除しませんでした。

その結果、「じゃあ、今回はパスする」という人もいたし、
ちゃんと考え、「自分にはまだ早い」と判断し、その旨連絡をくれた人もいる一方、
選考テストの案内に対し、何もレスポンスがない人(涙)も結構いました。ま、人生そんなもんです。



D (ちょっとハードル高くしすぎたかなあ・・・)


なんて、心の片隅でかすかに思いかけていたとき、ある受験者の言葉が励みになりました。

「今回、実技テストがあるということで、最初は正直躊躇しました。
でも、よく考えたら、自分は通訳者なんだし、
通訳パフォーマンスを披露し、評価されるのを嫌がる正当な理由が何一つ思いつかなかったので、
受けることにしました」


だって。うれしいじゃないですか。。。



● もう、二度とやりたくない。。。(笑)

選考を始める前、
「ダンさん、大変だと思いますよ~。がんばってくださいね、ムフフ・・・」
的なことを言ってくれた通訳者が複数いましたが、果たしてその通りになりました。

その人たちは通訳学校で講師をしていて、
日頃、生徒達のPerformanceを評価しているので、
そのしんどさを知っていたのでした。

いやあ、通訳者を評価したり、ましてや今回のように選んだり、選ばなかったりするのって、
ほんとにしんどいですね。

もう二度とやりたくありません。



● 何がそんなに大変なのか

ちょっと説明しますね。

まず、選考当日、通訳者のパフォーマンスを聞きます。

その時点で、
D (あ、すごくいいな)

とか、
D (荒削りだけど、磨けば光るな)

とか、
D (ちょっと難しいかな)

とか、いろいろな印象を受けます。

その印象を、1週間寝かせました。
(前半の4日分の受験者について。最後の1日については、その場で合否を決めました)





さて、1週間後。

山奥の民宿に宿を取り、
みんなの通訳を録音したICレコーダーを持って、
男の一人合宿(涙)を行いました。
(前にもどこかで書きましたが、僕は日常の中にいると、大事な判断が出来ません。
この民宿にはよく来ます。)



頭の中で寝かせてきた通訳パフォーマンスを、改めて一人一人聞いていきます。



この際、最初失敗したのは、いきなり細かいところの評価を始めてしまったこと。

D (あ、今のところの訳はいい。あ、今**を落とした、あ、・・・)


とかやってると、評価不可能!

だってね、細かいミスをするからダメとか、そういう話じゃないので。



ということで、仕切り直し。
2-3度、その人の通訳全体を通して聞き、
選考当日に受けた印象と比較します。

そうしたマクロな作業を全員分行い、
とりあえず合格者(仮)を決めました。

このときの評価基準が難しい。
ロジック、Details、分かりやすさ
英語のDelivery、日本語の表現力
スピード感、聞き手に対する配慮、・・・


評価項目は無数にあり、どれも重要なんだけど、どれか一つに絞って評価するわけにもいきません。

最初は、それぞれの評価項目に、重要性に応じた配分をして、
ロジック 20
Details 10
分かりやすさ 15



みたいに。

そして、一人一人について、各項目毎に5段階評価で点数をつけ、
ロジック 4
Details 5
分かりやすさ 4



みたいに。

そして、各項目の重要性と、各項目の獲得点数を掛け合わせる
ロジック 20 X 4
Details 10 X 5
分かりやすさ 15 X 4



みたいに。

二人目の途中ぐらいで、Excelの式が複雑になりすぎ、キレそうになったのでやめました(爆)。

じゃあ、マクロの評価は結局どうしたのか。

いやあ、これ言っちゃうと、
なんだかすっごくいい加減に聞こえちゃいそうで心配なんですが、あえて言うならば

IRISっぽさ

でしょうか。。。

「ピンと来る」と言ってもいいんだけど、ちょっと違う。
ピンと来るって言っちゃうと、じゃあ何をもってピンと来る・来ないのか、という話になっちゃうから、
結局元の木阿弥なんです。

でも、IRISっぽいかどうかであれば、評価が出来ました。



あともう一つ、重視した要素が、伸びのある通訳かどうか。
ちょっと言い換えると、伸びしろがあるかどうか

一方、
まあ上手なんだけど、既に結構まとまっちゃってる・固まっちゃってるというか、
そこそこ完成されちゃってるというか、
どことなく「もうアガリ」感が漂っちゃってる感じの人もいました。

それに対し、合格者は全員、伸び伸びとした、まっすぐな通訳をする人たちでした。
(注: 不合格者の中にも、そういう「いい通訳」をする人がいました)



さて。
なんとかマクロの評価を終え、合格者(仮)を選んだ上で、今度はミクロ。

一人一人の通訳を1フレーズずつ聞いていき、
いい点・悪い点を全てリストアップしていきます。

こうして、マクロ・ミクロ双方から見て、
通訳レベルを評価しました。

ミクロの評価でやりたかったのは、
人柄の良さとか、これまでのIRISへの貢献とか、
通訳力以外の要素の徹底的な排除。

実は、そうした公平性を期すために、
声質を全部調整し、誰が誰だか分からなくして、
その上でミクロの評価を行おうかな、と思いましたが、あまりにもめんどくさいのでやめました。
あと、そこまでしなくても、公平に評価出来ると思ったので。

実際、ミクロの評価は、心を氷りつかせた上で行いました(冷笑)。



この、ミクロの評価の結果、おもしろいことが2つ起きました。

1.敗者復活
一人、不合格(仮)としていた人の中から、合格者が出ました。
当初の、マクロの印象は
D (もうちょいだな)
という感じだったんですが、ミクロで聞いてみると、実にいい通訳をしています。
厳しめに見ても、落とす理由が思いつきませんでした。

貴重な逸材を逃すところだった、危ない、危ない。。。

2.IRISっぽさの裏付け
マクロの評価の結果、「IRISっぽい」と判断した通訳者たちの通訳は、
やはり高レベルでした。
たった数分の通訳の中にも、褒めたいところが数カ所あり、
「ああ、これはさすがにやっちゃダメだ」的なミスはなく、
細かいところもそれほど雑ではない。
多少気になる点があっても、これから改善していける点ばかりでした。

やっぱり、最初の印象は大きくはズレていなかったんだな、と思えました。



● 経歴不問

通訳者が通訳会社に登録する際、必須となる通訳業務の経歴書

**に関する国際会議
**のシンポジウム
**社主催のカンファレンス




的な一覧表が、人によっては何枚も何枚も続きます。

IRISでは提出を求めませんでした。
意味ないんですよね、そんなの出されても(笑)。

今の会社で通訳者をたくさん見ているので、経歴書もたくさん見ますが、
全部「だからどうした」って感じだし、
そもそも、本当なのかどうかも確かめられません。

そして、何よりも、
経験が多い/長いからといって、通訳が上手とは全く限らない

そういう例を、数え切れないほど見てきました、これまで。



そんな無味乾燥な一覧表よりは、「私はこういう人間です」みたいな、
何か記憶に残ることを一言書いた紙を1枚出した方がよっぽどマシだと思います。
現在の「通訳業務経歴書」という制度は、いずれ廃れる運命にあるでしょう。



それはさておき、
今回、過去の経験を全く重視しませんでした。

そして、IR通訳経験が少ない人の中に、大きなポテンシャルを見いだす例が相次ぎました。
実際、合格者の中にも、IR通訳経験が少ない人がいます。

こうした、まだ経験の少ない通訳者に対し、
IR通訳のポイント
考え方
よく出るフレーズ・単語

などを集中的に身につけていただくWorkshopを、今年開催します。

少人数で集まり、
今回の選考で使ったような模擬IRミーティングを一人一人訳していきながら、
僕、および他の参加者が
「今の訳はいいと思う」とか、
「自分だったらこう訳す」とか、
あれこれDiscussionしようと思っています。
メモ取りについても、互いのメモをShareし合おうと思います。

これを何回か集中的にやってもらえれば、
3年ダラダラとIR通訳をやってきたのと同程度の経験を、
半年間で積ませられるのではないか、と信じています。

まあ、とりあえずやってみます。



● 誠意を見せる

選ばれなかった人は、やっぱりちょっと傷つきますよね。
たかが僕、たかがスタートアップのエージェントIRISとはいえ、
「選ばれなかった」と感じたら、やっぱり傷つくと思います。

IRISは通訳者のためのエージェントになるのに、
肝心の通訳者を(何人も・・・)傷つけるのは、
心苦しい上に、ビジネスモデルに反していて、実に悩ましかったです。



一方、通訳者の気持ちを考えるあまり、IRISっぽくない人を合格させちゃうと、
後で大変なことになるし・・・。

(とりあえず合格させといて、実際には仕事を回さなければ、簡単に回避できる問題です。
でも、IRISではそれはやらず、
合格させたからには必ず一定量の仕事を紹介する、という作戦で行こうと思います。)



受かった人はもちろん、今回受からなかった人にも
「受けてよかった」
と思ってもらえないか。

そう考え、超詳細な講評を全員分行い、お送りしました。
各自の音声の録音と一緒に。
この作業で二晩徹夜しました048.gif

せめて、ご自分の通訳を振り返るとともに、
第三者から見た客観的なコメントを活用していただこう、と思って。

その結果、何人かからは、「ためになった」的なコメントをいただきました。
でも、何の音沙汰も無い人もいて、やっぱり傷つけてしまったかなあ、と気になっています。



● いいメンツが集まった

最近、NHKの取材班がエベレストに登る、という番組を観ていて、
今回の選考を連想しました。

最高峰に、一緒にアタックする仲間は、
実力・人格・向上心、いずれの面においても、
信頼できることが必須条件になります。

今回、そうした仲間を選べたという、自負があります。



間もなく、ベースキャンプ出発。
みんな、頂上までがんばろう!!


by dantanno | 2012-01-25 09:25 | IRIS | Comments(0)