通訳における、「完璧」について

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「完璧な通訳」って、ありうると思いますか?
「完璧な翻訳」は?



以前この記事で書いた通り、僕はずっと前から、「通訳における完璧はあると、
固く信じています。

時間的な制約が無い(締め切りはありますが・・)翻訳の場合はもちろん、
通訳においても、「完璧」はあり得ると思う。




何をもって「完璧」とするのか、その定義にもよりますね。

僕の定義は、
「今の自分には、これ以上うまく訳せません」
というレベル。

つまり、「自分」というものは未完であり、いくらでも向上の余地があるんだけど、
今の自分にとって、「これ以上の訳は出来ない」=これが最高・完璧です、という訳は出来るだろう、という考え方です。





ちょっと、みんなで演習。

冒頭の写真にある、「完璧とは何か。」という日本語。
みんなだったら、どう訳しますか?







What is perfect.

結構ベタですね。別にいいけど。

What is perfect?

"?"をつけるべきか否か。

What is "perfect"?

この場合、「完璧」みたいに、チョンチョン””に入れるべきか?

What is "perfection"?

perfect/perfectionの選択で小一時間悩んでみる。

What is the meaning of "perfection"?

あえて冗長にしてみるか?

How do you define "perfect"?

これは「定義の問題」と解釈し、意訳するか?

What do you mean by "perfect"?

ちょっとくだいてみるか?




いくらでも、無限に訳の候補は出てきます。
「完璧とは何か。」の7文字を訳すのに、これだけの小宇宙(Microcosm)があるわけです。
"Just do it"の3語とかも手強いですね。「ラブ注入」もなかなか難しい)



でも、いつまでもブレストしていてもしょうがない。どこかで踏ん切りをつけなければいけません。
そこで、例えば
"Is that the best you can do?"

という、かなり挑戦的な意訳にしてみよう、と思ったとします。




訳における、Point of no return(それを過ぎたらもう引き返せない分岐点)

翻訳であれば納品時。
通訳であれば発声時。

そこにさしかかったときに、まさにこの訳と同じことを自分に問いかけることになります。

Is that the best you can do?
これがお前の「最高」か?
お前に、これ以上の訳は出来ないのか?


もし「出来る」のであれば、出直してきなさい、となります。
まだ納品・発声してはいけません。

でも、特に通訳の場合、時間的な制約があるので、えいやで「納品」せざるをえない、ということになります。






ほんとにそれでいいのか。
通訳は時間との闘いだから、しょうがないのか。



僕は、通訳におけるえいやを認めるのがすごくイヤだった + 今でも絶対にイヤです。

翻訳はともかく、通訳では「完璧はあり得ないのか・・・」と嘆いていた頃(2008年)、
この広告コピーと出会いました。


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街中で、ふとこの広告を見かけたとき、
どれくらい勇気づけられたか。
広告の力をカラダで理解したのもこのときです。


やっぱり、完璧な通訳ってあるんだ!
それを目指せばいいんだ!
と思い、興奮しました。



さて、、、
先週、ある通訳案件を担当し、
その模様がYoutubeに流れました。
こちらからご覧いただけます。)


あまり深く考えず、リンクをTwitter/FacebookにUploadしたところ、、、
たくさんの友人から好意的なコメントを頂きました。

普段、通訳者というものの仕事ぶりを目の当たりにすることがなかなか無い人もいるだろうから、
そういった物珍しさもあると思います。

仕事でこんなに褒められたのは初めて(注:もう37歳)で、とてもうれしかった。。。



自ら進んで共有するぐらいですから、通訳の出来はまあまあ良かった。
仮に80点としましょうか。
このときみたいなダメダメな通訳@40点であれば、進んで共有はしません。その辺がズルいところですね)

いろいろなお褒めの言葉の中に、
もっと上を目指せるだろ?的なコメントがあったのが特にうれしかった。

確かに、80点(=合格点)の通訳なんだけど、ちゃんと聞き直すと、
文字通り耳を覆いたくなるようなミス、誤訳、飛ばしちゃったところ、余計なフレーズ・音のオンパレード。



ここでね、姿勢が問われると思うんです。

通訳=時間の制約+プレッシャーの中での作業なんだから、80点でよしとするのか。
逆に、その20点に注目し、「何をやってんだお前は」と考えるか。

今はまだ80点でもいい。
でも、100点って、実は取れるはず。


本当は100点なんて無理だよね。でも、それを言っちゃあ始まらないから、せめてそれを目指さないとね、という、
よくあるアレではありません。
本当に、マジで100点って取れるはずだと思うんです。
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それは、もうその上はない、という意味ではない。

今の自分の器・能力・経験では、これが100点です、という意味。山の頂上を極めた、という意味。
あとは、自分の器・能力・経験をさらに磨き、分母を拡大していけばいい。次はもっと高い山を目指せ、ということ。



週の前半に40点、後半に80点、そして、来年か再来年辺りに100点。
通訳者としての方向性を再確認できた、実り多き一週間でした。

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by dantanno | 2011-12-04 01:08 | 通訳 | Comments(0)

通訳・翻訳者 丹埜 段(たんの だん)のブログです。IRを中心にビジネス・ファイナンス系を専門としています。 通訳会社IRIS経営。http://iris-japan.jp


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