通訳者は「国際ハブ空港」たれ

昨日から空港づいているので、空港ネタを一発。。。


通訳者は、SpeakerとListenerの間、つまり、話し手と聞き手の間に入ってお仕事をします。
そして、IR通訳の場合は、ラジオ番組とか、一方的なプレゼンと違い、SpeakerとListenerが、会議の最中、頻繁に入れ替わります。
この「双方向性」も、IR通訳の魅力の一つだと思っています。

Speakerがメッセージを伝えたい相手は誰か?
それは、もちろんListenerです。
でも、Speakerの想いがListenerの心に届く前のクッション/フィルターとして、一度通訳者のカラダの中を通ります。


Speakerは、えてしてListenerではなく、通訳者の方を見て話します。
(「通訳者を交えたミーティング」に慣れている人は、直接Listenerの方を見て話すこともあります)


僕、駆け出しの頃は
D (勘違いするな。この人(Speaker)は、俺に話してるんじゃないんだ。機械的に、黒子的に、情報のインプットに徹しろ)

と、自分に言い聞かせていました。


今は違いますね。
D (この人、俺に話してる♪)
ぐらいの勢いでやっています(笑)。

最近はさらに増長して、
D (Speakerが、なるべく俺を見て話すように出来たら勝ち)
と楽しんでいます。

どっちがいいのか、よく分かりません。
実験中です。

「Speakerが (通訳者の方ではなく) Listenerの方を見て話すのがいいミーティング」、という考え方もごもっともだと思う。
あるいは、
「どこ見てるかはあんま重要じゃないんじゃない?」という通訳者もいるでしょう。
「Speakerは、目のやり場に困っている。Listenerの方をずっと見ているのも気まずいし。その視線を受け止めるのは通訳者であるべき」という意見もあるかもね。


ちなみに、、、
アメリカのクリントン元大統領は、人の話を聞く名人だそうです。
相づちの打ち方とか、真摯な態度とか。
単に「熱心に聞いているそぶりがうまい」というだけでなく、本当に熱心に聞くんでしょうね、人の話を。

Speaker    (アメリカの大統領が、今、俺の話を熱心に聞いてくれている。。)

こりゃ、イチコロですね。
あっという間に「支持者一人追加」ですね。


<余談>
僕、昔、From Aで見つけたバイトで、「海外のVIPの運転手」というのをやりました。
クリントンさんとかゴア元副大統領とかが来日した際、そのご一行を運んだりしました。

ゴアさんご一行の仕事をして、その後しばらくたった頃。

ゴア事務所から、サイン入りの手紙と、The Vice President of the United Statesと書いたキーホルダーが届きました。
こういうの、実にうまいですよね、アメリカの政治家は。



D (次の衆院選は、絶対ゴアさんに入れなきゃ)
と思ったのは言うまでもありません。




さて、、、
D (Speakerは、Listenerにではなく、俺に対して話してる♪)
というアプローチですが、具体的に何を心がけているか。


① Speakerの目を見るようにする

うつむき加減で人の話を聞いてたら、「失礼なやつ」と思われちゃうかもしれませんね。
なるべく相手の目を見るようにします。

そのためには、、、
フフフ、そう、なるべくメモ取りの量を減らす必要がありますね。
慣れたテーマ(製造業とか、不動産とか)であれば、1時間のIRミーティングをA4 1枚に収めます。
>IRIS通訳者の皆さん  先日の勉強会でお配りしたやつです。


一度、「手元を見ず、相手の目を見ながらメモしまくる」という実験をしました。
「さあ、訳そう♪」という段になって、メモ帳に展開するスパゲッティー・ナポリターナを見て意気消沈。その後、このテクは封印しています。


② 笑顔、笑顔、笑顔

必死に聞き取ろうとするあまり、しかめっつらになるな。
特に、慣れていないテーマとか、はっきりしゃべらないSpeakerのときに要注意。
しかめっつらをしたところで、よく聞こえたり、理解が深まったりすることはありません。

ゲストを笑顔でもてなせないのなら、、、
通訳料金を半額お返ししましょう♪

③ うなずきと相づちの連打

海外投資家が話しているときは、あまり言葉には出しませんが

Uh-hm (アーハーン)
ウンウン、分かるよ。
そこ、気になるよね、確かに。
いい質問だよ。
Good point!


というニュアンスを精一杯顔面(笑)に込め、ベスト(当社比)のうなずきを連発します。


逆に、
日本企業が話しているときは、うなずきと共に、

ハイ
なるほど
ハハア


と、間を見て、合いの手発言を入れています。


通訳者が相づちを打つことに対しては、賛否両論あると思うけど。
いいの、今はまだ実験中だから。


投資家も、企業も、不安に思っているんです。

投資家側の不安
こんなこと聞いてる投資家って、俺だけ?
こんなこと聞いて、バカだと思われないかな?
Am I being too pushy? しつこいか、俺?
この次の質問のネタが無い
持ってきた日本円、そろそろ切れそう。。
etc., etc.


企業側の不安
投資家の真意はナンだ?
これ、答えになってる?
こんな説明で分かるんかいな、果たして。
あれ?これ、開示していいんだっけか?
やべ、洗濯物干したままだ。
etc., etc.



こういう不安をね、通訳者のレベルで和らげてあげるんです。
そうすると、投資家・企業双方がリラックスしてミーティングが出来、通訳もしやすくなる
→ 指名につながる。


発言の最終的な行き先はListenerだけど、それを一旦窓口として通訳者が受け止める。
それを、双方向で、Globalに行う。

まるで国際ハブ空港ですね。




ある国を訪れる際、まずはその国の国際空港に降り立ちますよね。
そして、もちろん空港はただの空港であって、その国の全てじゃないんだけど、
でも、、、

空港の職員がみんな笑顔で、親切だったら
空港がキレイ・清潔で、設備がちゃんとしてたら
看板とかが分かりやすくて、迷わずにすんだら
入国審査とかの待ち時間が短かったら
そして、都心に近くて便利だったら


安心・快適な気持ちになるじゃないですか。
その国に対する印象がアップするじゃないですか。

IR通訳者も同じ。
我々は、日本を代表し、
世界を一旦受け止めるクッションになったり、
世界に向けた発信のジャンプ台となる、
国際ハブ空港



投資家が日本を理解し、好きになるかどうか。

日本企業が、元気よく世界に羽ばたけるかどうか。



全ては、いや、全てじゃないか。でも、大きな部分は、我々IR通訳者次第。

ゆけ、IR通訳者たち!!!


<ボヤッキー>
それにしても、成田って不便ですね。。
成田の企画・建設・運営に尽力してきた幾多の人たちにはほんっと申し訳ないけど、ありゃダメだと思います。

昨日も、成田から自宅まで2時間(渋滞込み)かかりました。
(ちなみに、電車だとどれくらいかかったんだろうか。 どれどれ。。1時間43分だって)


一緒に日本を回る投資家たちもよく言ってます。
Inconvenientはまだいい方。
Absurd、Crazy、・・・

なぜ羽田があるのに、あんな遠い空港を使わないといけないのか。
誰のためか。誰の意地・利権を守るためなのか。
成田→羽田のシフトに反対している人は、自分+成田市+千葉県のことに加え、日本、そして世界のことも考えてほしい。

成田の立地の悪さは、残念なIR通訳と同じで、日本の国家的損失だと思います。
Commented by makikoai2005 at 2011-09-13 01:58
なるほどな、と思いました。
 通訳者がうまい具合に相槌を打つことで、話し手が、自分の話していることに自信を持てるような雰囲気を作るって大事ですよね。うんうん。
 特に、話し手がちょっとあがってしまっていたり、居心地悪く感じているんじゃないかなと思うようなときには、相槌をうつことで、「あなたをサポートしてますよ。」っていうメッセージが伝えられるっていうか。
 他方で、私がこれまで職場で頼まれた通訳では、特に会食やなにかの席で(ある意味ビジネスではない社交の場的なところで)多いように感じるのですが、話し手(特にトルコ人)が、本来の話し相手ではなくて、私に向かって、「ところでどこでトルコ語勉強したの?」「トルコ人と結婚してるとか?」「まあ!やっぱりそうなの!で、お子さんは?」「何歳?」「うちの娘にも同じ年の子がいるよ」等々話しかけてきてしまったり、そういう時ってお話し相手の日本人の方の手前、結構気まずいし、「私は黒子なんですよ」ということをやんわりと伝えなければならないことがあります。
Commented by makikoai2005 at 2011-09-13 02:03
あとは、トルコ人のお客さんがお話のネタに、「いやあ、こちらの通訳さんはとてもトルコ語がお上手ですね~(もちろんお世辞)。トルコ人かと思いましたよ(そんなわけない)。」とかって日本人のお客さんに言ってしまったりするときも、なんとなくそれを自分で訳すのが気まずくて、そこの部分は3割程度に訳したりしてしまいます。(汗)
 ん~。やっぱり根本的にdantannoさんのIR通訳と、私が頼まれるような仕事ではジャンルとかレベルとかも違うので、いっしょくたにしてはいけませんね(笑)。
 成田は不便ですよね。空港に行くまでが立派に小旅行です。
Commented by dantanno at 2011-09-14 08:19
makikoai2005さん、どうもありがとうございます。
確かに、話し手が、目線だけでなく、話の内容まで通訳者に向けてきてしまったら、困っちゃいますね。花嫁よりも目立っちゃうゲスト、みたいな感じ?ちがうか。
本番中の、通訳者に対する褒め言葉。。。確かにこれは訳しにくい。ま、僕は今まであまり出くわしたことが無いので大丈夫ですが(失笑)。
Commented by BYP?のギタリスト at 2011-09-14 22:13 x
(次の衆院選は、絶対ゴアさんに入れなきゃ)
にヒソカに笑いました。
Commented by dantanno at 2011-09-15 00:02
BYP?のギタリストさん
あ、そこ、気付いていただけました?あざっす!!
ネタじゃなくてガチで間違えてると思われたら困るな、と思いつつ書いたんで、よかったです、ツッコんでいただけて。
by dantanno | 2011-09-12 08:06 | 通訳 | Comments(5)

通訳・翻訳者 丹埜 段(たんの だん)のブログです。IRを中心にビジネス・ファイナンス系を専門としています。 通訳会社IRIS経営。http://iris-japan.jp


by dantanno