アカパカーフィください!

脳研究者の池谷裕二氏が書いた本を読みました。

日本人が英語を話す際、例えばニューヨークのカフェでコーヒーを飲みたいとして、どうしても
”A cup of coffee”を
「ア・カップ・オブ・コーヒー」と言ってしまいがちなわけですが、それをね、もういっそのこと
「アカパカーフィ」って言っちゃえばいい、むしろその方が通じる!っていう本です、簡単に言うと。

著者自身が留学時代、大変な想いをした経験が本書の元になっていて、実におもしろい。

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アカパカーフィ以外にもいくつか例を紹介しますね。

I have to do my best.
× アイ・ハフ・トゥー・ドゥー・マイ・ベスト。
◎ アイハフタドゥマイベスッ。

Can you take our picture?
× キャン・ユー・テイク・アワ・ピクチャー?
◎ ケニュテイカワペクチョ?

I got it!
× アイ・ゴット・イット!
◎ アイガーレッ!

一事が万事、この調子。

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著者がこの本で言っていることは、別にそんなに「新しい」ことではありません。
昔、What time is it now? → 掘った芋いじるな?が流行った時期があったのを覚えている方もいるかもしれません。あれと同じ考え方ですよね。

でも著者が称賛に値するのは、そこに法則性を見出している、という点です。

単に「よく使う英語のフレーズをいくつか持って来て、それらを著者提唱の「カタカナ読み」つまりアカパカーフィ読みした場合どうなるか」を列挙しているだけでもおもしろいんだけど、それだけじゃないんですよ。その裏にある普遍的な法則をいくつか見出し、まとめている点がすばらしい。やっぱり頭いいんですね。

一見それぞれ個別に存在する現象の、その裏にある共通の法則性を見出す、というプロセスは、我々通訳者が行う「ことばの抽象化・概念化」と似ていて、それが上手に出来る人に憧れを感じます。会議の場で、ある人が話した内容が一見○△×と個別バラバラだとしても、それらに共通する点や、それらが向かっている方向を察知し「要はこういうことですよね」を瞬時に見抜き、それを訳の背骨に位置付けた上で訳の構成を考えられる通訳者がたまにいて、そういう通訳を聞いているとすごく意思を感じるし、会議参加者にとってもありがたい存在だろうなあ、と思います。話が逸れました。

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この本を読んで、僕の感情は
1.(笑)
2.驚き
3.怒り
と三段階で推移しました。

1.最初のリアクションは爆笑でした。著者提唱のカタカナ英語(すなわちアカパカーフィ)がいちいちおかしくて、笑いっぱなし。

2.次に来たのが「でも、確かにアカパカーフィの方が通じる!」という驚きです。実際、この本に書いてあるいろいろなフレーズを口にし、自分の中のスイッチを「外国人」側にして聞いてみると、確かにそっちの方が分かりやすい、というものばかりなんです。

3.怒り。なんで日本の学校では「ア・カップ・オブ・コーヒー」と発音するように教えるんだ!。
言い方を変えると、なんで"A cup of coffee"という英語を(実際の発音方法とかけ離れた)「ア・カップ・オブ・コーヒー」というカタカナに落とし込もう、と決めたのか!

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この本が指摘しているのは、ローマ字表記の弊害なんですよね、要するに。

Coffeeという英語をカタカナにする際、2つやり方があって、

1.「カーフィ」: 外国人がCoffeeと言う際、実際にどのような発音をしているかを聞き、それを一番近いカタカナに落とし込む方法

2.「コーヒー」: 本場の外国人がCoffeeをどのように発音しているかなんてどうだっていいから、Coffeeという表記を、ローマ字表記のルールに従ってカタカナに落とし込む方法

どう考えても1.の方がいいのに決まってるのに、なんで2.のやり方でやってるんですかね。100年ぐらい前にどこかの会議室で専門家のおじいちゃんたちが決めたルールなんでしょうが、なんでそんなヘンなルールにしたのかをあれこれ考えていてもしょうがないので、この本に書いてある法則に従い、一刻も早く「カーフィ」的な発音に移行した方がいいと思います、日本の人たちは。

実際、日本企業のマネジメントの方々と一緒にIRで海外に行って、その人たちがレストランでがんばって自分で英語で注文するケースもあるんですよ。いいな、すばらしいな、と思って眺めていると、せっかくちゃんと「コーヒー」とか言ってるのに店員さんが???みたいになることが結構あって、これってやっぱり(英語から)カタカナへの落とし込み方がおかしいんだろうなあ、、、と漠然と感じていたところに本書に行き当たったものですから、非常にうれしかった。

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本書後半の、
バイリンガルの人の頭の中がどうなっているかとか、
日本人の英語下手は関税以上の効果がある、とか、
ことばは外的やり取りだけでなく「内的思考のツールでもある」、
といったセクションも非常に興味深い。

ことばに興味ある人におすすめです。

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by dantanno | 2016-11-21 01:16 | プレミアム通訳者への道 | Comments(0)