たんのだんのブログ

irisjapan.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

滝行通訳

先日、一風変わった同時通訳案件を担当しました。IRISの通訳者と2名体制で。

その会社のマネジメントの方々が行うプレゼンを英語に同時通訳したんですが、おもしろいことに、プレゼンが行われているその間は誰も我々の同時通訳を聞いていないんです。係りの人たちが録音をしているだけ。

で、どうするかというと、プレゼン終了後別室に行き、関係者みんなで

1.マネジメントのプレゼン(日本語)と
2.我々の同時通訳の録音(英語)

を聞き比べ、
「社長が言ってる**の箇所が抜けてるよね」とか
**って訳してるけど、ちょっとニュアンス違うかな〜」
みたいに指摘いただいたり、ときには通訳者が自分で
「**の箇所は訳が違いますね、すみません」
みたいに指摘し合う。

で、そこで出た指摘に基づき該当箇所の通訳を録音し直して、それを編集した音声がファイナル版の通訳としてその会社のWebページにアップされる、という案件でした。

ーーー

ややこしいのでプロセスを整理すると、

1.プレゼン本番を英語に同時通訳
2.プレゼン(日本語)と通訳(英語)をみんなで聞き比べ → 修正すべき箇所を指摘
3.その指摘に基づき、通訳し直す。通訳し直した音声を再度録音
4.3.で録音した音声を、元々の同時通訳に上書きし、係りの人が編集
5.編集後の通訳(ファイナル版)をWebにアップ

聞き比べの際に部屋にいる「関係者」は、プレゼンを行った会社の社員の方々と、音声の収録を担当する技術の方々。

ーーー

そういうエグい案件であることは元々分かっていたので、せめて自分がより難しいパートを取ろうと立候補しました。でもフタを開けてみると実は逆で、僕が取った方がラクなパート、もう一人のIRIS通訳者がやってくれたパートの方が難しく、申し訳ないことをしたと反省。。。

でも、難しいパートを担当してくれたからこそ、その通訳者の通訳がすばらしいことを改めて確認出来ました。

ーーー

そしてもう一つ意外な収穫だったのは、収録を伴う通訳案件としてこうした形式もアリで、これはこれでなかなか優れていることを実感出来たことです。

日本企業による発表(例えば決算説明会)の通訳を収録する場合、よくあるやり方は事前に日本語の読み原稿が通訳者に渡され、事前に翻訳した英文を発表当日に通訳者が読み上げ、それを収録する、というもの。
この方法だと、訳の正確性は担保されますが、デメリットとして、訳のライブ感が無くなることや、翻訳をしてくれる通訳者を見つけないといけない、という点があります。まあ翻訳者の方にお願いする、という手もあるのでしょうが。

一方、本番で話される日本語をぶっつけ本番で英語に同時通訳し、それをそのままWebに載せてしまう方法だと、スピードとライブ感は抜群ですが、同時通訳ゆえ、どうしても訳の正確性は落ちます。

でも、一旦同時通訳をした上で修正したい箇所だけを後から上書き修正する方式だと、後述するように通訳者が針のむしろ状態になる、という欠点はあるものの、スピード、ライブ感、そして訳の正確性のバランスがとてもよく保たれると思いました。

ーーー

多くの通訳者が同意してくれるだろうと思うんですが、自分の通訳を録音して後から自分で聞くことは、多大な心理的苦痛(笑)を伴います。いい例えが思い付きませんが、例えばタレントの人が後日自分の出演番組を見返すときのようなものなんでしょうか、分かりません。芸人にとって、自分がスベってるシーンを見返すようなもの?苦痛です。

一人で聞き返すだけでもイヤなのに、それを関係者全員が精一杯耳をこらし、間違いを見つけ指摘する、、、なんて想像しただけでもつらいです。針のむしろ(bed of nails/thorns)です。でも、それをやることで、とてもいい刺激を受けました。


d0237270_23040104.jpeg


自分の通訳を改めて冷徹に分析する機会を得て、いいところと悪いところが浮かび上がった気がします。

通訳者になりたての頃はボイスレコーダーを駆使し、こうした心理的苦痛を伴う通訳トレーニングをずいぶんしていたような気がするし、それがとても役に立った記憶があります。

その後何年も経ち、なんとなく仕事に慣れてきて、(少なくとも表面上は)案件が火を噴くことも無く、火消しの必要も感じない日々を送っていると、どうしてもComplacentになりがちです。こんな感じでいっか、と思いがちです。

そんな自己満足しがちな自分に冷や水を浴びせかけるとともに、高い料金を取って通訳しているわけだから、「後から聞き返すのは恥ずかしい」などと言ってられないなと痛感させられる、とても厳しくかつすがすがしい通訳案件でした。



by dantanno | 2016-10-24 23:10 | プレミアム通訳者への道 | Comments(0)