たんのだんのブログ

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通訳業の「経費」について

毎年この時期になると、通訳業の「経費」について考えさせられる。

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世のほとんどの通訳者は、収入のわずか10%ほどしか源泉徴収されていないにもかかわらず、そこからさらに還付を受けている。つまり、国に養っていただいている存在とも言える。

一方で、多くの付加価値を提供し、その見合いに多額の報酬を得て、多額の税金を支払っている通訳者も、ごく少数ながら存在する。実際今日も、納税額が数百万円にのぼることを嘆く通訳者と飲んできたので、間違いない。

(個人的には、我らが通訳業界が「国に養っていただく」存在から脱し、国を養ってやるぐらいの気概を持った業界になってほしいと願っているが、今回のブログで書きたいのはその点についてではない。)

そういう、多額の納税をしている通訳者にとって、「通訳業の経費」というのは死活問題だ。

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例えば、90円でモノを仕入れ、それを100円で売る商売であれば、
(話を分かりやすくするため、販管費は無視)

売上 100円
売上原価 90円
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課税所得 10円
税率   30%
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税額    3円

となる。ところが、通訳業の場合、

売上   100円
売上原価   0円
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課税所得 100円
税率    30%
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税額    30円

と、税額が10倍になりかねない。

通訳業の場合、売上原価に相当する費用項目が無いのである。かかっているのは販管費だけで、それとて、「現場に行くための電車賃」とか「ノートを買いました」とか「携帯電話料金(の一部)」とか、微々たるものでしかない。残りは全部「利益」、すなわち課税対象の所得とみなされてしまう。

実際、経費がほとんどかかっていないからしょうがないのだが、本当にその考え方でいいのか。通訳業は本当に「経費」がほとんど無く、ボロもうけなのか。



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例えば自分の場合、今こうしてまがりなりにも通訳業を営めているのは、子供の頃に授かった教育のおかげが大きい。

特に裕福なわけではなかったし、かつ、Expatなどでもなかったため、国や勤め先企業が学費を出してくれたわけでもないのに、高額な学費を払ってインターナショナル・スクールに通わせてもらった時期がある。
また、小学校の時にインターナショナル・スクールに転校したはいいものの、英語力が不足していたため、インターの長い夏休みを利用して単身海外に「留学」したこともあった。

そうした取り組みの目的はひとえに「英語を学ぶため」、そして「国際感覚を身につけるため」であった。いずれも、通訳者にとって不可欠な能力だ。

そう考えると、今自分が通訳者として収入を得られるのは、過去のこうした多額の犠牲があったおかげであって、出来るものならそうした費用を今、時間差で計上してしまいたい思いにかられる。



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我々通訳者にとって、もう一つ大きな費用項目、それは「時間」である。

たった1時間の会議の通訳をするために、その前の日を丸々予習に費やすことだってあり得る。そこまでしないにしても、ある日に受けようと思えば受けられたであろう通訳案件を、その翌日の通訳案件の予習をするために泣く泣く断った経験がある通訳者も多いだろう。

その場合、予習に費やした時間、および断った案件で得られたであろう収入(機会費用)は、当日その通訳案件を引き受け、その収入を得るための「経費」と言えないか。

また、子供の頃の話で言えば、友だちが遊んでいる間にBBCのビデオを見せられたり、公文で国語を勉強したりしていた「時間」も支払っている。



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どこまでを「見えない経費」として捉えるかは、通訳者によって異なるだろうが、我々通訳者の仕事にこうした「見えない経費」が存在することは間違いないと思う。
そしてこの「見えない経費」は、通訳以外のどの仕事にも存在するが、通訳業については特に大きいと思う。



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税務署は、こうした見えない経費や、(見えるものの)タイムラグが大きすぎる経費を税務上の経費として認めてくれない。それを嘆く通訳者の気持ちもよく分かる。

でもその一方で、税務署の「見えないものは考慮しない」という方針のおかげで我々通訳者がとても助かっている側面も実はあると思う。



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我々がすばらしい通訳をし、その場の成功に貢献し、会議参加者にとても喜ばれ、ほめられたり感謝されたりしたときに感じる喜び、充実感。それは金銭的報酬とは別の「見えない報酬」であると言える。
通訳者によっては、金銭的報酬よりも、こうした見えない報酬の方がやりがいにつながっている人もいるだろう。

もし税務署が、こうした見えない報酬も「課税報酬」として課税をするとなったら、我々の納税額は一気に何倍にも増えてしまう。



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税務署には、見える/見えないではなく、「実質的にどうなのか」を基準に課税してほしいものだ。でも、それが実務的に難しいのも分かる。

であるならば、通訳業に伴う見えない経費を計上出来ないもどかしさを感じる一方、見えない報酬については課税をお目こぼしいただいていることを踏まえ、プラスマイナスで考えるとまあいいのかな、と思う。

見えない経費も大きいが、実は、見えない報酬はそれを大きく上回るのではないか。そう思わせてくれるステキな商売、それが通訳業だと思う。

by dantanno | 2016-03-09 02:58 | 提言・発明 | Comments(0)