たんのだんのブログ

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選ばれし者たちの、楽園

以前、「不動産」をテーマにしたIRツアーに同行し、通訳をしたことがあります。
数日間にわたり、外国人投資家のご一行と一緒に、都内の不動産デベロッパーやリートを訪問し、IRミーティングをしました。ミーティングだけでなく、不動産の見学もしました。ショッピングセンターとか、倉庫とか。その一環で、販売中のマンション・ギャラリーに行ったときの話です。

一般的にマンション・ギャラリーでは、入口で受付を済ませ、まず最初に物件の模型とか、位置関係を示す地図を見たりします。
で、シアタールームでプレゼンのビデオを観て、その後モデルルームを見学、といった流れが多いかと思います。
そのシアタールームで事(こと)は起きました。

ーーー

投資家たちにパナガイド(同時通訳機器)を付けてもらい、僕も一緒にシアタールームに入り、ビデオの音声を同時通訳することにしました。

プロの声優さんのかっこいい声で、マンションの説明/アピールが始まります。

話の細かい内容はもう忘れましたが、例えば

「24時間動き続ける国際都市、東京。
その、まさに中心となる、**区、**(街の名前)。
今、新たな時代が動き出す!!」

的なオープニング。
この「新たな時代が動き出す!!」を訳したところで、投資家たちから軽い笑いが起きました。

「JR線と、地下鉄2路線へのダイレクト・アクセス。
そして、銀座から*km圏の利便性。」

立地の説明の後は、マンションそのものの紹介に入ります。

「緑に溢れたプロムナードを抜けると、そこは光が降り注ぐエントランス・ホール。
共用部には、ゲスト・ルームや託児スペースを配置。」

そして、いよいよ締めです。

「ここは、都市の中のアーバン・リゾート。
選ばれし者たちの、楽園。
**アイランド・ヒルズ・クレセント・タワー(仮称)! → ジャーン♪」 (終了)

といった感じのビデオ音声でした。

ーーー

この「選ばれし者たちの、楽園」をどう訳そうか、悩みました。
ええい、もうそのまま訳しちゃえ、ということで、雰囲気を出すためにちょっと声優チックな声で

A paradise for the chosen ones.

みたいに訳しました。
もっといい訳もあるでしょうが、ここでは訳し方を話し合いたいわけではないので、論を進めます。

"A paradise 〜" を聞いた海外投資家たちが、狭いシアタールームの中で一同大笑い。

同席していた不動産会社の方々、そして証券会社の方々は当惑気味です。別に笑うところじゃないのに、って。

僕としても、その頃はすっかり仲良くなっていた投資家たちに対し、(あんたたち、マジメに聞きなさい(苦笑))的な気持ちでしたが、でも、彼らがおもしろがる気持ちも分かるんです。確かにややハイエンドな物件ではあったものの、まあ言ってみればフツーのマンションです。その売り文句が「選ばれし者たちの、楽園」だと、それをおもしろく感じるんですよね。

幸い、日本サイドの方々も(まあ、確かにちょっとおもしろいか・・・)と思ってくれたのか、その場は和やかに終わりました。

ーーー

このとき、通訳者の役割について、改めて考えました。
正解の無いテーマなので、あくまでも僕の勝手な考えですが、通訳者は、双方の間に入って言葉を置き換えているだけではなく、文化の架け橋でもある、と思っています。架け橋であるからには、「選ばれし者たちの、楽園」がマジメな売り文句であり、揺らぐ心のまま4度目のマンション・ギャラリー訪問中のパパの心の、最後の最後の一押しをその売り文句がすることもある、ということが分からないといけないし、一方で、その売り文句を聞いてゲラゲラ笑い転げる気っ風のいい外国人の気持ちも分かる必要がある。一緒になって笑い転げてはいけないし、「何がおかしいんだ!!」と腹を立ててもいけない。
だからこそ通訳は、他の仕事以上に「視野の広さ」、そして何よりも「心の広さ」が求められる、ステキな仕事だと思うんです。






by dantanno | 2016-02-29 23:37 | IR通訳 | Comments(0)