書記通訳

この前担当した、一風変わった通訳案件。

ある会社の海外IRで、社長・IR部長・証券会社の担当者(インベストメント・バンカー)と一緒に海外をまわりました。



会社側のメインスピーカーである社長は英語が堪能。
(じゃあ通訳いらないじゃん)って話なんですが、確かに社長は通訳不要でも、同行しているIR部長が英語出来ないため、IR部長のために通訳をしてほしい、ということでした。

ってことは、ミーティング自体は社長と海外投資家間で英語でやるんでしょうから、IR部長の隣に座ってウィスパリング通訳をするんだろうな、、、と思いきや、そうではありませんでした。



企業 「ウィスパリングではなく、PCに打ち込んでほしいんです」とのこと。
Dan 「え、訳をですか?」
企業 「そう。」



要するに、社長と海外投資家が英語でやり取りしているそばから、話されている内容を口頭で訳すのではなく、PCに文字として打ち込んでほしい、という依頼です。
IR部長は、僕のPCの画面を眺めて(なるほど、そう言っているのか・・・)と確認する、ということです。


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おもしろそうです。
ぜひ担当させていただくことにしました。



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準備の段階で(どうしたもんかなあ・・・)と、あれこれ考えました。


多分、これは変換の勝負になるな、と。



「恩赦の強豪はどう言うkakaku設定をしているんですか。
剃れに大使、胴体高しますか?」



だと、仮にうまく「訳」せたとしても、上手にデリバーしたことにならない。

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いろいろ調べて、日本語入力システムであるATOKを有料でPCに入れてみました。

詳細は割愛しますが、これはいいですね。
特にMacユーザーにお勧めです。



ATOKを使いながらのスムーズな入力を練習し、その業界の専門用語(本番で出てきそうなもの)をいくつか単語登録し、準備を終えました。



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さて本番。
予想通り、楽しく「通訳」することが出来ました。

しかも、この方式には思わぬメリットも。



1. 静か(笑)

ウィスパリング通訳だと、ミーティング中、通訳者がずっとつぶやいていることになります。
小さな声ですが、気になると言えば気になります。当たり前ですが、通訳を必要としていない人ほど気になります。

剃れに大使、じゃなくて、、、それに対し、PCに打ち込む方式だと、通訳者が声を発しないで済みます。
もちろんPCにパチパチ打ち込む音はするし、一生懸命会話についていこうとするとややバチバチ気味に打ってしまいましたが、やはり肉声と比べると気にならないでしょう。



2. そのまま議事録になる

普段僕がする通訳は、言ってるそばから消えて無くなってしまいますが、今回は別です。
交わされた会話をほぼ全て、しかも訳された状態でPCに打ち込むので、終わった後、それがそっくりそのまま議事録になります。

これは証券会社から同行しているインベストメント・バンカー(議事録作成担当)にとても喜ばれました。
今後、議事録作成サービスもやろうかしら。

一日一緒に回って、その日の全てのミーティングの議事録を(ちょっと手直しした上で)メール添付して送り、その日の仕事が無事終了。
ビールもなかなかオツな味がしました。



3. 食事しながら通訳できる

いろいろな形態の通訳がありますが、ある意味楽しく、ある意味とてもつらいのが「食事しながらのミーティングの通訳」。
ミーティング中に通訳者も一緒になって食べてしまうと、通訳が出来ません。
だから、基本食べられません。

しかも、こういうミーティングに限って、えてして高級レストランとか、おいしそうな割烹とかで行われて、お腹がギュルギュル言っているのが周りに聞こえるか不安な思いをしながら訳すことになります。

こういう場合、最初から通訳者の分の食事は用意されないか、ミーティングの前にパパッと食べられるサンドイッチ的なものを用意していただけることも多いですが、通訳者の分もしっかり食事が用意されていることもあります。ありがたいんですけどね。

そんなとき、ほとんど手を付けられなかった料理が下げられるのを目で追うときのうらめしそうな僕の顔(笑)。


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ときどき、会議参加者が気を利かせてくれて
「ダンさん、どうぞ食べてください」
みたいに言ってくれることがあって、
Dan 「あ、ありがとうございま・・・」
とフォークをのばしかけると、その人が
「で、今後の戦略ですが、」



会話を止めてくれないと、僕食べられません。。。



その点、「書記通訳」ならサイコーです。
モグモグバクバク食べながらでも、PCにパチパチ訳を打ち込めますから。



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話変わって、ウチの近くの銭湯によく行くんですが、そこでは湯船に入りながらもNHKを見られるよう、壁に埋め込まれた大画面TVがあって、話されている内容はTVに字幕としてほぼ同時に表示される仕組みになっています。
みなさんも、家のTVでNHK観ながら「字幕」って押してみると、もしかしたら日本語の字幕が出るかもしれません。それです。



(お風呂入ってまでTV(しかもNHK)見なくても・・・)
という気もしますが、番組内容がおもしろいと
(ああ、これは便利なサービスだな)
と感じる気まぐれ屋です、僕は。

以前、フロに浸かりながらその字幕を眺めていて、
(よくこんなに早く打ち込めるなあ)
と感心したものですが、がんばってやってみると、意外と出来るものです。しかも訳しながら。



一番のカギは、やはり幹事の返還でした。

by dantanno | 2014-11-21 04:14 | プレミアム通訳者への道 | Comments(0)