通訳エージェントのコーディネーターは、なぜコロコロ辞めるのか

通訳者ではない人のために、一言解説。

「コーディネーター(Coordinator)」: 
通訳エージェント(=通訳会社)において、主に「対通訳者」の業務を行う人を指す。
通訳者に案件を紹介したり、クライアント・通訳者間の情報・資料のやり取りを仲介したり。
案件の受注から完了まで、通訳者に対し各種サポートを提供します。
今、僕が日々行っているのも、主にこの業務です。



通訳コーディネーターは、コロコロ辞めます。

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1. コXX 「こんにちは。XXと申します」
の、舌の根も乾かぬうちに
2. コXX 「実は、この度退(転)職することになりまして、、、 後任は○○という者が」
の、舌の根も乾かぬうちに
3. コ○○ 「短い間でしたが、この度退(転)職することになりまして、、、 後任は△△という者が」

1.に戻り、無限ループが続きます。








通訳業界各社のコーディネーターと、いろいろ話す機会があります。
みなさん、実に優秀・マジメで、通訳者(およびクライアント)のことを親身に考えている人が多い。
決していい加減な人たちでもないんですが、離職率が異常に高い気がする。
なぜ、通訳コーディネーターはボンボン辞めるのか。

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その理由は、ここにはちょっと書きにくい理由も含め、いくつかあります。
幸い、メインと思われる理由はここに書けるものなので、それを書いてみようと思います。



通訳コーディネーターがコロコロ辞めるのは、
マジメな人ほど、対クライアント、および対通訳者
利益相反(Conflict of interest)に耐えられないから
ではないか。



1. 対クライアントの利益相反

この前、四国ツーリングに行ったことはご案内の通り。

四国で、丘の上に立つ高級旅館072.gifに泊まりました。
丘の上に立つだけあって、そこのロビーや露天風呂から盆地を見下ろす眺めはサイコーです。

ところが、、、
チェックインし、通された部屋は、下界を見下ろす眺めのいい側ではなく、宿の裏山に面した部屋でした。
別にいいんだけどね。

平日で、宿がそんなに混んでいる感じがしなかったこともあり、部屋に通された当初は
D (本当に、眺めがいい部屋は全部満室なの?)
と一瞬思いました。

でも、考えてみれば、眺めのいい部屋はきっといっぱいのはずです。
そっちが空いてるのに、あえて眺めのよくない部屋に客を通すインセンティブが宿側にないからです。

つまり、、、
どうせ空いているのであれば、なるべくいい部屋に客を通した方が、客はもちろん喜ぶし、宿側もトク
ということ。

客は、いい部屋に通されればその分喜ぶ。
宿側にとっては、部屋の売値およびコストは変わらない一方、宿泊客が喜び、リピーターになってくれるかもしれない分、いい部屋に通した方がトク。



上記原則は、基本的に「部屋の売値が同じであれば」という前提に基づきます。
でも、部屋の値段が違う場合でもあてはまります。

ホテルに泊まるとき、安いスタンダード・ルームを予約してたのに、
フロントの人 「デラックス・ルームのお部屋が空いているので、アップグレードさせていただきます」
という、ラッキーな瞬間がありますよね。

これも同じ原理。
どうせ空いているのであれば、ワンランク上の部屋に泊まらせた方が、客は喜ぶ。
一方、宿泊客が喜び、リピーターになってくれるかもしれない分、宿側もトク。

ただし、部屋の売値が異なる場合、あまりやり過ぎるといけません。
それに慣れた宿泊客は、高い料金を払ってデラックス・ルームを予約するのをアホくさく感じるようになってしまうから。



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宿泊業界において、なぜ
どうせあいてるなら、いい部屋に通した方がいい
ということになるかというと、部屋毎の「変動コスト」が変わらないから。

宿側にとっては、デラックスとスタンダードルーム間で何が違うかというと、
・建設費(デラックスルームの方がやや内装がいいから)
・掃除の費用(部屋が広い分、掃除が若干大変)

そして、一番のコストは
・面積コスト(部屋が広い分、ホテルの床を多く占有している)

結局、ホテルは不動産業なんだなあ、と思う所以です。

上記の通り、デラックスルームの方が諸々のコストが高いんですが、その差は主に固定費。
変動費の差は、「掃除の費用」ぐらい。
だからこそ、
どうせあいてるなら、なるべくいい部屋を稼働させた方が理にかなう
ということになるんです。



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四国の宿の部屋に通され、茶なぞ供されている間、ずっとそんなことを考えていました。
そして、宿泊業界と、我らが通訳業界の仕組みが決定的に異なることに気付きました。

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宿泊業界における部屋割り、すなわち宿側による
「この客は、どの部屋に泊まらせようか」
という選定は、
通訳業界における通訳者アサイン、すなわち、通訳コーディネーターが
「この案件(クライアント)には、どの通訳者をアサインしようか」
という選定をするのと、非常に似ていると思います。

似ているんだけど、その際の通訳コーディネーターのマインドセットは、宿のそれとは全く逆の状態にあります。

次回、通訳業界における通訳者アサインの仕組みを見ていきましょう。

<続く>
by dantanno | 2012-10-06 23:10 | 通訳 | Comments(0)